父の詫び状
向田邦子著
文春文庫
三題噺みたいなエッセイが多い
脚本家、向田邦子の処女エッセイ集。元々『銀座百点』という雑誌で連載していたもので、その中から24点を抜粋して一冊の本にしたというのがこの本。
全体的には、書き殴りみたいなエッセイで、あるテーマに沿ったいくつかのエピソードを書き連ねるというものである。そのため、あまり面白味のないものもあるが、著者の幼少時代について書いたエピソードはかなりユニークである。
こういった箇所では、著者の幼少時代の父母、兄弟姉妹、当時の生活の想い出が描かれており、それがために昭和初期から戦後までの日本の1家族の姿というものがあぶり出されていて、非常に興味深く読んだ。特に、小さなことで怒りすぐに怒鳴り散らす父親のエピソードが非常に印象的であり、この父親のイメージは、著者が脚本を書いた『あ・うん』の登場人物とも重なる。こういうところに著者の経験が反映されているということがわかる。また、このエッセイに登場する著者の母のイメージもこのドラマの登場人物(妻であり母である女性)に近いような気がする。
目を引いた項は、表題作の「父の詫び状」の他、「お辞儀」と「子供達の夜」あたりか。「お辞儀」に出てくる黒柳徹子の留守番電話のエピソード(黒柳徹子が向田に電話したとき、当時登場したばかりの留守番電話で応答されたが、1分では話し足りないために何度にも分けて続けて録音を続けたという話)は、テレビ番組『トットてれび』でも再現されていたもので割合有名な話だが、初出はこのエッセイだろうと思う。ちなみに『トットてれび』には「向田邦子」(ミムラが演じていた)も登場していた。あのドラマはつまらなかったが「向田邦子」像の印象は残っている。また「父の詫び状」についてもその後ドラマ化されている。こちらのドラマも、その後見てみたが、このエッセイの内容をよく反映したドラマになっていた。なお脚本は向田邦子ではなくジェームス三木である(ドラマ製作当時、向田はすでに死去)。