見晴らしが丘にて

近藤ようこ著
ちくま文庫

市民の日常が繊細かつシニカルに描かれる

 近藤ようこの代表作で、「見晴らしガ丘」という架空の町を舞台にし、そこに住む住人たちの日常を描いた9本の短編を集めた作品である。

 ドラマチックな要素は多くないが、市民の日常の起伏が繊細かつややシニカルに描かれるという作品で、どことなく向田邦子のドラマを思わせる。この作品が発表されたのが1986年だったことを考えると、こういう傾向の作品がマンガでも受け入れられるようになっていた時代と言うことができるのではないだろうか。もちろん一篇一篇の質が非常に高いのは言うまでもないが、だからといって世間に受け入れられなければ発表の機会すら与えられないだろう。

 内容やタッチはやまだ紫に似ているが、それもそのはず、近藤ようこはかつてやまだ紫のアシスタントをやっていたこともあるらしい。また作品発表の場も雑誌『ガロ』ということで共通。僕自身は、若い頃『ガロ』も何度か購読しており、当時、それまでの傾向と少し違ったマンガ作品も探し回っていたため、当然近藤ようこの名前も知っていたが、作品は最近まで読んだことがなかったのである。かつてどこかで目にしていた絵柄があまり好みに合わなかったことから、ずっと敬遠していたのだった。少し前に『五色の舟』『夢十夜』を読んで自分なりに「再発見」したというわけ。少し興味が出てきたため、最近何冊か読んでいるところだ。機会があったら、これからも何冊か読んでみるつもりでいる。同時に、やまだ紫の作品ももう一度読んでおこうかなという気にもなってきた。

-マンガ-
本の紹介『ホライズンブルー』
-マンガ-
本の紹介『五色の舟』
-マンガ-
本の紹介『高丘親王航海記』
-マンガ-
本の紹介『夢十夜 (近藤ようこ版)』
-マンガ-
本の紹介『御伽草子―マンガ日本の古典』
-随筆-
本の紹介『父の詫び状』
-マンガ-
本の紹介『花の名前』