わたしの渡世日記 (下)

高峰秀子著
文春文庫

交流のあった名士たちがすごい

 女優、高峰秀子のエッセイで、『わたしの渡世日記 (上)』の続きである。

 下巻は、太平洋戦争終結以降、結婚するまでの数々の話が題材になっている。こちらも上巻と同様、元々は週刊朝日の連載で、各エピソードがほぼ時系列で並べられている。下巻では特に、母親との確執の話にインパクトがある。金に汚い母親からさまざまな嫌がらせを受ける。ほとんどパワハラに近い。一方で、当時のさまざまな名士との交流も記述され、それぞれの人々の人物像が語られる。名士には、小津安二郎や木下恵介、成瀬己喜男らの映画人の他、梅原龍三郎、谷崎潤一郎、志賀直哉、太宰治、川口松太郎らが名を連ねる。有名女優とは言え、その交流の幅広さに驚く。こちらはおおむね、こういった人々がいかに大きな「人物」であるかが語られ(太宰治についてはその限りではない)、心が洗われるような爽やかさがある。

 その他、パリに半年間留学(という名の逃避行)したときのいきさつとパリ生活、松山善三との出会いや結婚生活などが気ままに綴られているが、文章はどこか男っぽい。てやんでえ、べらぼうめかなんか言いそうな雰囲気が全編に漂う。昭和という時代の華やかな一面を照らし出した、なかなか面白いエッセイであった。個人的には、日本初の総天然色映画、『カルメン故郷に帰る』の撮影話が非常に興味深かった。

第24回日本エッセイスト・クラブ賞受賞作

-随筆-
本の紹介『わたしの渡世日記 (上)』New!!