仲代達矢が語る 日本映画黄金時代

春日太一著
PHP新書

一俳優の視点からの戦後日本映画史

 俳優の仲代達矢のインタビューをまとめた本。ただし、一般のインタビュー本みたいに質問と回答が交互に出てくるわけではなく、仲代達矢の一人語りみたいな記述になっている(途中、その話の内容を補足するような記述が挿入されている)。一般的に、インタビュー本を読む人は、話し手のことを知りたいと思って読んでいるわけで、著者のことを知りたいと思っているわけではない。そのため、インタビュアーの方がしつこくしゃしゃり出る本は正直言って大変鬱陶しいんだが、この著者はその辺をよくわきまえているようで大変好感が持てる。

 で、この本の主人公、仲代達矢だが、「はじめに」でも記述されているように、戦後日本映画で重要と考えられる多くの監督の作品に出演している。黒澤明、小林正樹、市川崑、岡本喜八、勅使河原宏、山本薩夫、五社英雄をはじめ、木下恵介や成瀬己喜男の映画にも出ていて、ある意味、戦後日本映画史を体現している俳優と言うことができる。その仲代達矢が、さまざまな監督のこと、他の俳優のこと、若い頃に所属していた俳優座のことについて率直に語っていく。さらに、あるいは『乱』(黒澤明監督)の現場の話だったり、あるいは勝新太郎や三船敏郎との交友関係だったり、映画ファンにとっては興味の尽きない話が続く。

 特に印象に残ったのは、小林正樹が晩年不遇だったという話。『怪談』でこけてからは自宅も手放し二間の家に住み続けていたという話はちょっと悲しくなる。小林正樹と仲代達矢が組んだ『切腹』と『人間の條件』は日本映画史に燦然と輝く金字塔だと思っているが、その小林正樹が晩年あまり評価されなかったというのもある意味情けない話である。この話はまったく知らなかっただけに少し衝撃を受けた。なお本書ではこの『切腹』と『人間の條件』についてもかなり紙数が割かれている。他にも仲代達矢が出演している諸作品、たとえば勅使河原宏監督作品の『他人の顔』、山本薩夫監督作品の『華麗なる一族』、『金環蝕』、『不毛地帯』、岡本喜八の『殺人狂時代』などについても詳しく語られている。もちろん黒澤作品もある。どの映画でも仲代達矢は非常に個性的な味わいを出していて、戦後の日本映画で大きな役割を果たしていることがよくわかる。それにしても仲代達矢の出演作、役柄は実に多岐に渡っていることよなあと、フィルモグラフィーを見てあらためて感じるのであった。

-随筆-
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