水滸伝 (1)(6)

横山光輝著
潮漫画文庫

うむう、これが『水滸伝』か……

 中国四大奇書の1つ『水滸伝』をマンガ化したもの。先日『まんがで読破』シリーズの『水滸伝』を読んで結構ストレスがたまった(結末を原作と違うものにする暴挙に出ている)ので、横山光輝版を読んでみた。

 こちらはあっちと違って原作にかなり忠実なようで、途中端折られた部分はあるが、おおむね原著どおりのストーリーで展開する。もっとも『水滸伝』自体、七十回本、百回本、百二十回本の3バージョンがあってそれぞれでストーリーが少しずつ違うので、どれが正当かは一概に言えないが、横山版は百二十回本を底本にしているようだ。

 原著では、108人の豪傑一人一人が各部ごとに主人公のごとく扱われるようだが、横山版ではさすがに108人はカバーしていない。せいぜい30人くらいのものか。ただ108人も主人公クラスの登場人物がいたところでややこしくてかなわないから、これで十分なような気もする。また、原著で見られる(という)残虐な場面もそれなりにカットされているということだが、それもそれで別にかまわない。総じて非常にうまくマンガ化できているという印象である。少なくとも『水滸伝』のエッセンスが伝わってくるし、ストーリーもおおむね知ることができる。まさに文字通り「まんがで読破」と言ってよい。

 今回読んだのは潮漫画文庫版だが、全6巻構成で、4巻から6巻の最後に「水滸外伝」として3種類のエピソード(「混世魔王樊瑞の巻」、「八臂那吒項充の巻」、「行者武松の巻」)が追加されている。全編、横山光輝らしさが充満しており、話の展開も非常に丁寧に描かれている。『項羽と劉邦』『平家物語』よりもキャラクターがよく描き分けられていてわかりやすいのも評価したい点である。そういう点でも『水滸伝』入門として恰好の書ではないかと思う。

 このマンガを読んだ後で小説に挑むというのも良いだろうが、小説でこれだけ登場人物が出て来た日にはそれこそ自分の中でキャラクターの描き分けをやらなければならない。その上結構な長編だし、読もうと思ったら結構骨が折れるんじゃないかと思うが、そういう意味でもこういった作品のマンガ化は非常に価値があると言える。ところどころ「うむう」とか「むふう」とかいう少々違和感のあるセリフもちらほら出てくるが、それもまあご愛敬。いずれにしても大した労作であるのは確かである。マンガとはいえ、これを読み切るだけでもそれなりに時間がかかった。

追記:
 「水滸外伝」の「行者武松の巻」に、『金瓶梅きんべいばい』でお馴染みの西門慶さいもんけいが登場するが、奇書同士でキャラを共有しているというのもなかなか奇妙なものである。実に面白い。

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