史記 (1)〜(11)
司馬遷原作、横山光輝著
小学館文庫
血に染まった中国史を垣間見る
歴史漫画の巨匠、横山光輝が司馬遷の『史記』をマンガ化したもの。
横山光輝の作品には他にも『項羽と劉邦』があり、この『史記』にも「項羽と劉邦」のエピソードはたくさん出てくるが、当然それだけにとどまらず、春秋時代、戦国時代、それから漢の時代からもさまざまなエピソードが選ばれている。その点、『項羽と劉邦』よりもバリエーションに富んでいると言える。
原作の『史記』は、大きく分けると「本紀」、「世家」、「列伝」で構成されており、「本紀」が歴代の王や皇帝、「世家」や「列伝」が武将や宰相などのエピソードを扱っている。『史記』自体結構な大著で、登場する人物、エピソードも相当な分量に上る。したがってすべてをマンガ化することはできず、横山光輝が選び出したエピソードがピックアップされている。
それぞれのエピソードはおおむね時代順に並べられているようだ(読んでいるときは気が付かなかったが)。司馬遷が漢の武帝の時代の人だったせいか、このマンガでもやはり戦国時代末期から秦、漢の時代が割合詳細に描かれている。
どの話も大量に人が殺され、名を残した人々でさえも平気で処刑されたりしている。項羽なんかは八つ裂きにされているほどで、血なまぐさいったらない。マンガだからあまり生々しくならずに済んでいるところがあるとも言える。エピソードは非常に多岐に渡っていて、「死者に鞭打つ話」(伍子胥)や「馬鹿の由来」(秦の宦官、趙高)、「背水の陣」や「四面楚歌」など、有名な言葉の由来になっている話も多数紹介されている。描き方はどれも丁寧で、横山光輝の思い入れまでもが伝わってくるようで、とても面白く読める。
このマンガで扱われている歴史上の人物には、項羽と劉邦、伍子胥や趙高の他、始皇帝、戦国四君、韓信などで、有名な話はおおむね盛り込まれているんではないかと思う。中でも最初に取り上げられていた、原著者、司馬遷のエピソードは、司馬遷がどういう意図で『史記』を書いたがよくわかる上、司馬遷のものの考え方、『史記』を貫く哲学などが読み取れて、非常に印象的である。僕が読んだ文庫版は全11巻だったが、全巻通してまったく飽きることなく十二分に楽しめる内容だった。『史記』入門編としては格好の著で、遠大な中国史の一端を覗き見できるような感慨も覚える。いずれはオリジナルの『史記』にも挑んでみたいと感じる。そういう点でも良書であると思う。