三国志 (1)〜(30)

横山光輝著
潮漫画文庫

マンガ日本遺産

 マンガ版『三国志』。全30巻構成(最初の版は全60巻)の力作で、完成まで15年かかったという。
 この『三国志』は、他の『三国志』同様、中国西晋時代の歴史書『三国志』を基にして明の時代に書かれた『三国志演義えんぎ』がベースになっている。さらにこのマンガ版については、吉川英治が『三国志演義』を翻案して書いた小説『三国志』が基になっているらしい。

 時代は、後漢末、黄巾の乱で国中が乱れるところから始まる。主人公に据えられるのはしょく劉備りゅうび玄徳げんとくで、あくまでも蜀側から見た歴史観である。そのため、ライバルである魏の曹操そうそうは、漢の帝位をないがしろにした奸物かんぶつという位置付けである。とは言っても、にも随時スポットが当てられ、同時進行的に描かれており、オリジナル『三国志』の記述が活かされている。

 劉備と関羽かんう張飛ちょうひの出会い(桃園の誓い)から、内戦、魏蜀呉の戦い、それぞれの建国と天子の即位などが、時代に沿って進行していく。しかしやがて建国時代の英雄たちが世を去り、次の世代に委ねられる。蜀の国は、軍師である諸葛亮しょかつりょう孔明こうめいが国を動かし、魏の国は司馬懿しばい仲達ちゅうたつがこれに対抗する。この2人の戦いは見物で、後半部のハイライトである。だがその後この諸葛も死に、国はさらにその後の世代に委ねられていく。最終的には司馬懿の子孫である司馬炎が魏の国を滅ぼし(帝位を禅譲される)、蜀、呉も滅ぼして統一を果たす。中国の大陸を舞台に、数々の英雄たちが世代を継ぎながら、現れては消えていく。まさに歴史の一断面、人間の栄枯盛衰を目の当たりにする思いである。

 絵は横山光輝らしく丁寧で、表情などもうまく描き分けられているため、登場人物の心情がよく伝わってくる。関羽や張飛が剣の達人でスーパーマンだったり表現は少々オーバーだが、このあたりは『演義』の影響なのかと思う。また登場人物がやたら多く、すべてを憶えられないのも残念な点だが、これも『演義』から引き継いだものなので致し方あるまい。もっとも全部憶えられなくてもあまり不都合はないが(重要人物については絵が印象に残る上何度も出てくるので確実に憶えられる)。

 しかしそれにしても、『三国志演義』をマンガにしてほぼ全体を網羅したというのは大変な労作で、しかも文庫化される折にそれまでに判明した時代考証的事実に従って全面的に描き直したというから、まったくもって頭が下がる思いがする。マンガ表現の限界を超えていると言っても過言ではない。実際30巻ともなると、読むだけでも結構大変である。実は20年近く前(おそらく文庫化された折)に何冊か買って読んだんだが、途中で断念してしまったことがある。今回はそのリベンジという位置付けで、当初は図書館で借りて読んでいたが、途中なかなか借りられない巻があったりしてストレスが溜まるため、結局全巻セットをまとめて古本で買った。それなりに費用はかかるが、この本については手元に持っておくだけの価値があると思う。読み終わったときの満足感も非常に大きく、個人的には「日本遺産」と言ってもいいんではないかと思っている。

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