SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか

毎日新聞取材班著
毎日新聞出版

現在巷に溢れている異常事態についての報告

 ネット経由で特定の個人に対して中傷を浴びせる、そしてその個人が場合によっては自死に至る……こういうような事件が後を絶たず、そのために対策が必要になっている。今まで消極的だった政府も、重い腰を上げつつあるというのが現状だが、そういった状況を報告しようというのがこの本。元々は毎日新聞に連載されていた記事で、それを一冊にまとめ、加筆修正したものである。

 この本では、ネット上で現在日常的に展開されている個人攻撃の現状が報告され、さらにはかつてネット上でいわれなき中傷を浴びせられた人々(スマイリーキクチ氏、伊藤詩織氏ら)に対して取材が行われる。先頃自死した木村花さんのケースについては、遺族、関係者らの声を集め、彼女に対する非難・誹謗・中傷がどのように行われていったか、それを本人がどのように受け止めていったかという状況が報告される。この報告が一つのケーススタディとして機能し、こういった報告を通じて、ネットを介した言語による暴力の実態が明るみになる。一方で中傷を繰り返した側の人々の声も集められており、攻撃を行う側のメンタリティまで白日の下にさらされている。このような記述を通じて、現在進行している「SNS暴力」あるいはネット攻撃が、不特定多数の集団による、弱者(集団対個人の図式での弱者)に対するハラスメント(いじめ)あるいは集団リンチであることが明るみになる。同時に、こういう現状が放置されていることに対して、読者が疑問を抱くような展開になっている。そしてそれが本書の意図でもある。

 こういったネット暴力については、これまでもいろいろなところで指摘されてきたが、言論の自由との兼ね合いがあるため、線引きが難しいこともあり、なかなか進展しなかった。ただ、これだけ被害者が出ているのに何もしないというのは明らかに異常で、おそらくこれから10年後、20年後に振り返って見ると、なぜこのような状況が長い間放置されてきたかが疑問になるような事例だと思うが(現在のストーカー事例のように)、しかし実際には現在もまだほぼ手つかずの状態のままである。

 もちろん、先ほども言ったように、こういった動向を取り締まる法が「言論の自由」を奪うような方向に進むとまずいわけで、そのあたりに対する議論も必要だが、それについても本書ではかなりのページを割かれている。とは言っても、現状が明らかに異常で速やかな対策が必要であることには変わりない。

 ともかく毎日新聞社が行ったこのキャンペーンは非常に説得力のあるもので、僕は連載時から読んでいたんだが、それがこういった形で一冊の本にまとめられたのは喜ばしいことである。どの記述も、新聞記事らしく大変読みやすい点も特筆すべき点である。少しでも多くの人がこの本に接し、ネットいじめあるいは不特定多数による集団暴行について自身の頭で考察することが望まれるところだ。

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