脳の配線と才能の偏り

ゲイル・サルツ著、竹内要江訳
パンローリング

ダラダラ続く冗長な記述にうんざり

 精神病や自閉症など、精神疾患を患っている人々が、実は特定の分野で非凡な才能を発揮するということをひたすら述べていく書。元々Amazon Audibleで朗読版を聴いて、その後、新刊本を購入し通しで読んた。

 自閉症の人々が、ある特定分野で特殊な才能を発揮する、いわゆるサヴァン症候群が存在するのは割合有名で、僕自身、以前ドキュメンタリーでその様子を見たことがある。実際に、自閉症児と接していると、相当マニアックな趣味を持っていることが多く、その点では十分著者の主張は納得できる。

 著者は他にも、書字障害(ディスレクシア)、ADHD(注意欠陥多動性障害)とADD(注意欠陥性障害)、強迫性パーソナリティ障害や不安障害、うつ病、双極性障害(いわゆる躁鬱病)、統合失調症などについても、同様の主張をしており、彼らが人類にとって新しい地平を拓く可能性を示唆している。そのために、現在のように精神障害児童を、普通のことができない社会適用不能者として扱うのではなく、特定の才能を伸ばしてやるような教育を施すべきだというのが著者の主張である。

 お説ごもっともで、それについては異存はないが(実現可能かどうかは不明だが)、ただ、すべての精神障害を一律に特殊な才能と結びつけるのは強引だったようにも思える。

 僕は以前から、天才と呼ばれる人々が奇矯な性格(あるいは精神病)を持つとする「天才論」が好きで、宮城音弥の『天才』なども学生の頃読んだのだが、そういう点では本書の主張もある程度は納得いくところである。本書の著者の専門は臨床心理学のようなので、基本的なスタンスは『天才』と同様なのではないかと思う。

 本書の最大の難点は、全編とにかく冗長過ぎることで、さまざまな事例を出しながら自身の主張の論拠にしようとするのはわかるんだが、人名が大量に出てくる上、登場人物たちの言葉の引用をいろいろな場面で随時挿入してくるため、いつ終わるかもわからない(ように思える)エンドレスな状態で、わかったようなわからないような記述がダラダラと続くのである。書かれている内容は、それほど複雑ではなく、読んでいてわかりにくいものではないんだが、とにかく冗長さゆえの読みづらさを感じる。これだけ冗長であることを考えると、(Amazon Audibleのように)人の語りとして朗読を聞いているくらいがおそらくちょうど良かったのだろう。話しことばであれば冗長さもそれほど気にならないものである。とは言え、朗読を聞いていたときでさえ、冗長さを感じていたのは確かである。ただAudible版の場合、朗読担当者、つまりナレーターが、登場人物のセリフを声色を変えて演じながら読んでいたりしてそれが少しやり過ぎで気持ち悪く、そちらに注意が向いていたために、内容の冗長さがそれほど気にならなかったのかも知れない。

 ともかく途中から本書の冗長な記述に嫌気がさして、読むのが大変苦痛になってしまったのは確かで、そのあたりはここではっきりと書き添えておきたいと思う。

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