ひきこもりはなぜ「治る」のか?
精神分析的アプローチ

斉藤環著
中央法規出版

これこそが〈理論編〉

 『「ひきこもり」救出マニュアル』の斎藤環の著書。タイトルは少々怪しげだが、内容は非常に充実している。これこそが「ひきこもり救出」の真の理論編である。

 元々は青少年健康センター主宰の理論講座「不登校・ひきこもり援助論」で行った6回の講座が基になっており、それを加筆修正したものがこの本だという。関係者向けに行われた講座であるためか、ひきこもり当事者の心情、なぜひきこもるのか、ひきこもり行為に対して周囲がどう対応すべきか、どうすれば社会復帰させることができるかなどが、理論面から述べられている。そのために、ひきこもりに陥る過程、ひきこもりを解消して社会に戻るまでの過程を俯瞰できるような印象があり、その道筋が見えてくる。言い換えるならば行程地図が与えられたかのような印象すら受ける。内容が正しいかどうかはにわかに判断できないが、しかし確実に一つの指針にはなると思う。こういう本が必要なのだ。

 前も書いたが、『「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉』は、こういう俯瞰的な理論はまったくなく、Q&A形式であったこともあり、粗雑でまとまりがないという感じがした。そのため〈理論編〉というタイトルは(おそらくちくま文庫の関係者がつけたんだろうが)まったく内容にそぐわない。あの本はむしろ「ひきこもりに直面した関係者が最初に読む本〈入門編〉」ぐらいのタイトルにするのが適切である。Q&A形式であるために非常に読みやすく、同時にひきこもり問題のあれやこれやが「見える化」されるような側面があるため、入門編としては非常に良い。だが、全体像が見えにくいという難点があった。そういう背景があるため、あの本の次に読む本として、この『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』は非常に良い資料になる。ひきこもり問題で悩んでいる人々には是非勧めたい本である。

 人が成長の過程で社会とどのように関わるか、そしてそれがひきこもりとどのように結びつくかの理論として、ラカン、コフート、クライン、ビオンといった人たちの理論が紹介されるが、このような理論については「現象を自分なりの枠にはめ込んでそれを分類し名前をつけた」という程度のものにしか思えず、あまり価値を感じない。もちろん著者も、彼らの理論が絶対的に正しいなどと考えているわけではなく、一つのものさしとして利用したいということのようである、「あとがき」から判断すると。したがってこういった学者の理論が有用とか無用とかの議論はとりあえず置いといて、ひきこもりに陥る際の仕組みのようなものを認識する上での参考と考えれば良いのではないかと思う。いずれにしても、こういった理論的背景を紹介することで、当事者に社会性を復活させることこそがひきこもり治療の目標であることがわかる。それを実現するために家族や治療者は何をすべきか、どうすべきかについても、著者の経験に基づいてかなり詳細に書かれているのがこの本であり、ひきこもり対策の本としては非常に有用な優れた書と言うことができる。後は、実際の経験談(成功ケース、失敗ケース)を集めた本を読めば、とりあえず(読者として)入門段階は卒業というぐらいの自負は持って良いんじゃないかと感じる。これから社会問題化するであろうひきこもり問題を考える上で重要なテキストになりそうである。

-社会-
本の紹介『「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉』
-社会-
本の紹介『「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉』
-社会-
本の紹介『ひきこもり500人のドアを開けた!』
-教育-
本の紹介『不登校は1日3分の働きかけで99%解決する』
-数学-
本の紹介『「自己肯定感」育成入門』