いじめを生む教室
荻上チキ著
PHP研究所
いじめ問題に対する指針を得ることができる
「ストップいじめ!ナビ」という団体の代表理事を務め、いじめ問題に真摯に取り組んでいる荻上チキの著書。
日本で展開されているいじめ議論の問題点(そのほとんどがデータに基づくものでなく論者の感情や思い込みに基づくものになっているというもの)に始まり、いじめがどういう状況で起こりやすいか、どういう子どもが標的にされやすいか、学校や親はいじめ事象に対してどのように対処すべきかなどが、データに基づいてきわめて冷静に語られる。使われるデータは、子どもたちに対して行われたアンケート調査などが基になっていて、信頼性や信憑性も高いと感じさせるものである。とにかく全編「きわめて冷静」という印象で、こういう態度は問題を読み解く上で非常に重要である。しかもその分析も的を射ており、いろいろと参考になることが多い。
たとえば、保守的な政治家などが主張している「道徳教育によっていじめを防ぐ」という議論については、道徳教育がいじめ解消になったという証拠はまったくなく、それどころかむしろ(規範を子どもに強制することがストレスを招く原因になる他、一定の枠に収まらないあるいは収まれない子どもの集団からの排除に結びつくという理由で)いじめを助長する原因になるという議論は非常に説得力がある。データを集めた上でそれに基づいた施策を行うのは行政として当然なアプローチなわけだが、実際にはそれがないがしろにされているという現状がある。この「道徳教育」にもそれが当てはまり、実際学校現場に道徳教育が導入されてしまうという情けない結果になったわけであるが、こういった誤った方策を取らないためにも、いじめ問題に限らずあらゆる問題に対して本書のようなアプローチで対応してほしいと感じる。
何より学校でのいじめの問題は、それぞれの犠牲者に対してもあるいは社会全体に対してもきわめて大きな影を落とすものであり、関係者がすぐにでも対処しなければならない問題である。本書のような真摯な研究こそが、そのためのよすがになるわけである。
薄めの本だが情報量が非常に多く、また参考文献も随時紹介されているため、いじめに対する分析や対策を行う上で非常に有用な入門書になっている。子どもと関わる人たちには、デタラメな言動に惑わされず、こういう真摯な主張に一度は触れていただきたいものだと感じる。