英国一家、日本を食べる

マイケル・ブース著、寺西のぶ子訳
亜紀書房

外から見た日本食

 フランスで料理修行したこともある英国人ジャーナリスト、マイケル・ブースが、日本のさまざまな食べ物を味わいつくすために来日し、その顛末を綴ったのがこの本。日本には3カ月滞在したが、なぜだか妻と2人の子供達もついてくることになった(結果的にこのことが話を面白くしているのだが)。

 本書を読む前は、バラエティに富む日本の食べ物にトライして、結局あれがうまかった、これはいけなかったという感想で終わるような本かと思っていたんだが、あに図らんや、著者のバイタリティたるやジャーナリストの鑑。なんと、相撲部屋でちゃんこ鍋をごちそうになったり、『ビストロスマップ』(フジテレビ系列で放送されていたバラエティ番組の1コーナー)の収録現場に立ち会ったり、日本の料理教育界の双璧、服部幸應や辻芳樹にインタビューしたりと実に果敢である。しかも来日した当初は元々何のコネもなかったというんだから驚く。もっとも来日して最初の食事が新宿の思い出横町だった(しかも家族で)ことを考えると、ただ者でないことはわかる。またその後も、日本酒の蔵元と味噌の蔵元を訪ね、幻の名店、東京の『壬生』や京都の『いずう』まで訪れるというんだから、まさしく日本の食を味わいつくしたと言えるんじゃないかと思う。

 もちろん、食べ物でもしっかりチャレンジしているのは言うまでもなく、北海道のカニ、博多のラーメン、大阪のお好み焼き、京都の湯豆腐など一通りのものは食べている。同時に日本の食に対して、歴史的な側面、文化的な側面からアプローチしながら、最終的にその真髄にまで迫っている点も評価に値する。しかもそういうものは、日本人でもあまり意識していないような部分であり、外から見た日本論としても価値が高い。

 記述は全編乾いたユーモアが漂っていて楽しい。台風の中買い出しに行くエピソードやドッグカフェから子供達を連れ出すエピソードは映像が目に浮かぶようで楽しく、京都でハルキ(という名の同性愛者)に迫られる話も秀逸である。また食べ物の好き嫌いが多かった子供達が鶏の軟骨好きになったり、魚の目玉を食べ尽くしたりという話もいい話だ。

 翻訳文も読みやすく質が高いが、ところどころ何が言いたいのかさっぱりわからない箇所があった。とは言え、おすすめの本であるには違いない。ただカバーデザインが奇怪で、ちょっといただけないと思った。

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