コンクリンさん、大江戸を食べつくす
デヴィッド・コンクリン著、仁木めぐみ訳
亜紀書房
アメリカ人だが下町人
人形町に住むアメリカ人、デヴィッド・コンクリン氏が、愛する日本食について書き綴った本。日本食だけでなく下町文化もこよなく愛し、地元の青年団に入ったりして、神田祭にも毎回参加しているそうだ。したがって、アメリカ人とはいっても僕よりははるかに東京下町文化について熟知しているわけで、そういう人が下町文化をこよなく愛するのは理に適っている。何人であろうと関係ない。そのため書かれていることは割とありきたりな下町論で、それが外国人の視点によっているという点だけが異なる。そうは言っても、このコンクリン氏、すでにほとんどできあがった下町住人であるため、外国人の視点がどの程度残っているかは少々疑問である。
元々はコンクリン氏の描き下ろしエッセイを翻訳したものだそうだが、日本の国内向けに出すというよりむしろ海外向け東京下町ガイドとして出版した方が良いという類の本である。実際に下町の鮨屋や蕎麦屋のガイドもたくさん載っており、全部コンクリン氏自身が食べ歩きしたというし、店の人とも仲良くなったりしているので、そういう点でもガイドとして秀逸と言える。日本には概ね似たようなガイド本はあるだろうし、なんといってもコンクリン氏の場合、きっちりした英語が書けるという点が、他のガイドにない強みである。それに下町人、つまり本場の人の発想を披露できている点も大きなメリットになる。
日本人が読んで面白い部分は、コンクリン氏がアメリカで日本食を知り、日本にやって来て、その後気に入って住み始めるまでくらいまでで、このあたりが比較文化論的で興味深いところである。後の部分は下町ガイドであり、(比較文化的な側面からは)取り立ててどうという部分は少ない。ただ大阪に行ったときにやたらランディ・バース(かつて阪神タイガースに所属していた野球選手)に間違われたというくだりは非常に笑える。