驚くべき日本語

ロジャー・パルバース著、早川敦子訳
集英社インターナショナル

外から見た日本語

 日本在住45年のオーストラリア人による日本語論。

 著者によると、日本語は(話す上では)非常に易しく習得が容易な言語であり、これまで言われてきたような「曖昧で難しい言語」ではない。たとえば動詞に格変化(主語に応じて動詞が変化すること)がないし、語彙も英語などに比べて少ないらしい。さまざまな場面に応じて省略される(できる)ために、よそ者にとっては「曖昧」に聞こえるが、その文脈さえわかっていたら、内容が理解できる。これはどのような言語にもあることで、日本語の特質が曖昧だとは言えないという。持って回った言い方にしても、それは相手に対する配慮などから使われているだけで、日本語自体が曖昧なわけではないんだそうだ。だから英語のような「国際語」にも割合向いている言語であるというのが著者の主張である。

 ただし決して「国際語にすべきだ」という主張ではない(少なくともそういう風な印象は受けなかった)。某所のカスタマーレビューにそういう読み方をしている評があったが、読みが浅いと言わざるを得ない。ましかし、これは本の側にも多少は問題がある。各章の見出しに「世界に誇る」だの「世界にもまれな」だの、ナショナリズムを喚起するような文言があるんだ。おそらく編集者が勝手につけたタイトルなんじゃないかと想像するが、こういうことが誤解の原因になる。

 本書の基本となっているのは、たとえばオノマトペ(擬態語)の多用が日本語の柔軟性を向上させているなど、あくまでも日本語の特質の紹介である。そしてまず母国語の特質をよく知った上で外国語を学ぶと真の意味でコスモポリタンになれるよという主張ではないかと思う。

 実際のところ、日本語を母語としている我々には、なかなかそういう特質はわかりにくいし、この本で書かれていることも意外に思うことが割合多かった。外からの視点が内の部分に気付かせてくれるということはよくあるが、これもそういった類の本で、要は比較言語学の延長線上にある本である。と言っても、学術的な本ではなくどちらかというとエッセイ風ではある。だが、学術的でないためにかえって読みやすく、それに先ほども言ったように意外性もあって、日本文化論としてはよくできた本ではないかと思う。英語版があったらちょっと読んでみたいところである(本書に出てくる日本語がどのように表現されているのかに興味が湧く)。

-随筆-
本の紹介『「ニッポン社会」入門』
-随筆-
本の紹介『フランス人ママ記者、東京で子育てする』
-随筆-
本の紹介『コンクリンさん、大江戸を食べつくす』
-随筆-
本の紹介『英国一家、日本を食べる』
-随筆-
本の紹介『英国一家、ますます日本を食べる』
-社会-
本の紹介『クール・ジャパン!?』
-国語-
本の紹介『犬は「びよ」と鳴いていた』