「ニッポン社会」入門
英国人記者の抱腹レポート

コリン・ジョイス著
生活人新書

英国人による日本人向けの日本論

 日本在住のイギリス人が書いた日本文化論。「よそから見た日本」というカテゴリー、実は学生の頃から好きなんだ。日頃見慣れているものが、別の角度からはこういうふうに捉えられるのかという驚きがあって良いのだ。NHK-BSで放送されていた『cool japan』なんかも毎週欠かさず見ていたほどだ。そのため、ちょっとやそっとの日本印象記なら、僕の方もそんなに感じるところはない。日本人が過剰に親切だとか、桜が美しいとか銭湯が最高とか、あるいはトイレがすごいだとかの印象記は今までさんざん聞かされているんで、そんなのが出てきたところで何とも思わない(特に過剰な日本礼賛には辟易する)。どうしてももっと新しい目線を期待するのである。

 さてこの本、前記のような比較的ありがちな部分もあるが、独自の視点も多く、その点で面白い文化論になっている。当然母国イギリスとの比較に基づくものが多いが、それ以上に彼自身の嗜好も強く反映されていて、そういう点が面白い部分になる。イギリス人の彼にとってビールとサッカーは欠かせないものだそうだが、日本サッカーの急成長と地ビールの広がりは90年代以降、いわゆる「失われた10年」に起こっており、彼にとってまさにこの10年は「失われなかった10年」になったというのも目新しい見方である。他にも全17章に渡り、いろいろな日本の事象を取り上げていくが、終わりの方はネタがあまりなくなったのか、意外性が少なくなり、読みものとして退屈になってきた。著者は現在、『デイリー・テレグラフ』の日本特派員をやっており、イギリスの新聞がどういう記事を好むかとかそういう話もあったが、こういう部分はイギリスの新聞の後進性を感じただけで、大して面白味を感じないものである。やはり、おかしなところでも面白いところでもどこでも良いんで、「外から見た日本」を徹底的に書き綴ってほしかったと思う。

 この本で一番面白いと感じたのは、日本語に関する章で、擬態語の豊富さに感心するくだりである。彼によると擬態語が日本語を面白くしているらしく、擬態語は「国宝」ものなんだそうだ。また、省略語や英語由来の新語などの造語能力も面白いそうで、「パソコン」、「マザコン」、「億ション」なんかが例として挙げられている。「おニュー」という言葉を初めて聞いたとき著者は大笑いしたんだそうだが、こういうのは普段日本語を使っている我々にはわからない感覚である。しかしこういう擬態語や省略語は、以前の社会論だったら日本語のダメな部分として扱われることが多かったが、見方を変えるとポジティブな捉え方もできるということがわかる。なんでも一方的な価値観でものごとを断ずることはいけないんだよということに、こういう「よそから見た日本」論であらためて気付いたりする。そういう点がこの種の文化論の魅力なんだろうなと思う。

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