まんがで読破 カント・作 純粋理性批判

カント原作、バラエティ・アートワークス作画
イースト・プレス

看板に偽りあり
これは『純粋理性批判』ではありません

 これも『まんがで読破』シリーズの1作で、なんとカントの『純粋理性批判』が取り上げられている。『純粋理性批判』に特別な思い入れがある僕はすぐに飛びついた。

 だがしかーし、読んでみて非常にガッカリした。この本のどこが『純粋理性批判』なんだと思う。単なる解説本である。僕はこれまで『純粋理性批判』の解説本を何冊か読んだが、少なくともそういった本に『純粋理性批判』というタイトルをつけたら、方々からクレームが来るのは必至だ。それをやっているのがこの本。

 高校の地学の先生が、生徒たちにカントの哲学を解説していくというストーリー(?)で、『純粋理性批判』の内容がセリフで延々と語られていく。また読んでもにわかにわからないような記述が次々と繰り出され、それを高校生たちがよどみなく理解していくという展開で、まったく作者の独りよがりにしか見えない。そもそも高校の地学の先生と生徒が登場する必然性がまったくなく、それに、これだけの内容を、生徒の反応に注視しながら(ホントに)よどみなく解説できる人がいれば、高校の地学の先生をやるまでもなく、カントの研究者として立派にやっていくことができると思うぞ。リアリティがないにもほどがあるってもんだ。マンガをバカにしてんのかというような非常にいい加減な設定の学習マンガである。

 全編を通じて『純粋理性批判』の内容をダイジェストで紹介しているが、前後でつじつまが合っていないにもかかわらず、それでもそのまま(強引に)話を進めている部分もあり、構成がかなり乱暴という印象も受ける。ノルマをこなしてヨシとしているような印象もあり、そういう点でネームを書いた人に対して憤りを覚える(ただし作画は丁寧)。いくらマンガ版とは言え、こんな本に『純粋理性批判』というタイトルをつけるのは厚顔無恥も甚だしい……と思う。

-思想-
本の紹介『純粋理性批判〈1〉』
-マンガ-
本の紹介『まんがで読破 ルソー・作 エミール』
-マンガ-
本の紹介『まんがで読破 クラウゼヴィッツ・作 戦争論』