まんがで読破 ルソー・作 エミール

ルソー原作、バラエティ・アートワークス作画
イースト・プレス

単なる学習マンガの矩をこえない
ただ『エミール』は珍しい

 これも『クラウゼヴィッツの戦争論』と同様、名著をマンガ化して敷居を低くしようという企画の本。題材はルソーの教育論『エミール』。このマンガ版で読む限り、ルソーの教育論も今となってはあまりどうということのないもので、確かに納得する部分も多いが目新しさはあまりない。もちろんそれはこの『エミール』で展開されている教育論が、現代の標準的な教育論に反映されているためとも考えられる。

 このマンガでは、ルソー自身が登場して、生まれたばかりのエミールを、家庭教師として成人になるまで育てていくというふうに展開する。ルソーの教育方法は、自然に近い形で育てるというコンセプトのようで、過保護にすることも過剰に口を挟むこともない。人間の持つ能力を活かしながら、道を外れないよう助言するといったものである。このタイミングでこういうことをすべきというのは随所に書かれているんだが、最終的にエミールをどういった人間にしたいのかというのがなかなか見えてこなかったんで、ちょっとわかりづらい部分はあった。おそらく、ルソーの描く理想像は、「幸福感を持ち人を差別せず善良で、困難にも耐えられる人間」ということになるんだろうが(本書の最後にそれらしい記述があった)、そういうのが最初から見えていたらもっとわかりやすくなっていたかも知れない。マンガ自体は、『戦争論』と同様、学習マンガの範疇を超えることはない。よくできているとは思うが。

 いずれにしても『エミール』に対してあまり感慨がなかったというのが正直なところで、おそらく僕自身、原著の『エミール』は今後も読むことはないんじゃないかと思う。このマンガで『エミール』を読んだ気になったらいけないとは思うが(実際思わないけども)、この程度の内容であるならば、あの大著(つまり原著の『エミール』)に挑むだけの価値があるとも思えないというのが率直な感想であった。

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