六国史
― 日本書紀に始まる古代の「正史」
遠藤慶太著
中公新書
日本の古代文献の入門書
古代に作られた日本の6つの正史を総称して六国史という。具体的には『日本書紀』、『続日本紀』、『日本後紀』、『続日本後紀』、『日本文徳天皇実録』、『日本三代実録』がこれに当たる。記述の対象となっている時代は、神代を含み神武天皇から光孝天皇の時代までである。神代や神武の時代まで扱っている『日本書紀』はちょっと特殊だが、『続日本紀』以降の歴史書では、製作年と比較的近い時代の出来事を天皇の事績として記述していることから、概ね事実をありのままに書いていると考えられている。ただしこの「ありのまま」がくせ者で、それぞれの歴史観は製作時点の政府側の見方であることに注意が必要である。つまり時の政府が、過去の出来事をこのように解釈したいという歴史観に彩られているわけ。したがって、それぞれの史書がどの時代に誰の命令によってどういういきさつで作られたか知ることが重要な鍵になるのだ。
そこでこういったことを詳細に書きつらねていく役割を果たしたのがこの本ということになる。そのためこの本では、それぞれの歴史書の特徴が非常に詳しく解説されている。また、時の政府が過去の出来事をどのように解釈したかったかに関する記述もふんだんに出て来て、そのあたりも面白い部分である。
とは言え、内容が細かく、そのために分かりにくくなった箇所が多くなったのは残念な点である。また、江戸時代をはじめとする後の時代における六国史の扱いまで書かれていて、ちょっと手を広げすぎのような印象もある。要は、本当にそこまで必要だったのかということである。あまりに対象が広いと、読む側にとってはややこしくなり、読むのに骨が折れる。あまりに雑多な情報を提示されても、読む側としては混乱して困惑してしまうわけだ。そのため新書の割には、読み終わるのに結構時間がかかってしまった。
ただそうは言っても、こういうような箇所にかえって非常に興味深い部分があったりするので、そのあたりは難しいところではある。たとえば明治政府が六国史に続く正史を作ろうとしていた話や、散逸していた『日本後紀』を江戸時代の塙保己一がどこからか集めて出版したという話は非常に興味深い。これだけで一冊の本になりそうなほどで、そういうことを考えると、この本が「日本の正史の入門書」として恰好の素材になっているとも言える。読むのには時間がかかるが、それなりのものが得られるという言い方もできるかな。