平安京はいらなかった
古代の夢を喰らう中世

桃崎有一郎著
吉川弘文館

歴史の虚像と実像

 京都の立命館大学で「京都学」を教えていた著者が、京都を離れるに当たって、その成果を「卒業論文」としてまとめたのがこの本。参考文献にも詳細に言及しており、学術論文のようなたたずまいである。

 平安京は、元々外交儀礼のために(つまり諸外国に対する見栄で)作られており、行政機能を遂行する上で必要である以上の大きさと規模を持っていたため、結局初期のプラン通り完成することはなく、後にはその領域の多くが本来の役割で使われなくなっていったというのが本書の主張である。

 実際、現在の京都の市街域は旧「左京」に著しく偏っており、現在の京都御所も、かつての内裏の位置とはまったく違っていて、かなり「左京」寄りである。そのあたりのいきさつも、背景の政治史と交えながら詳細に説明されており、大変わかりやすい。内容はかなり専門的だが、説明が丁寧であるため、わかりにくいということはない。ある程度の日本史の知識があれば十分楽しめる。

 また、おそらく平安研究者の間では常識であると考えられる位階制度(正一位から従初位下まで)の詳細や平安京の基本構造である条坊制などについて非常に丁寧に説明されているのも好感が持てる。この時代の歴史や文学に興味があれば、かなり食いついてしまう内容ではないかと思う。

 大内裏の門の名前の由来(119ページ)や、朱雀大路が畑として使われていたという話も興味深い。またわかりやすい図版が多用されており、しかもその言及箇所も正確で、しっかり作られた本であることがわかる。校正もきっちり行われているようで本としての完成度も高い。本を出すならこのくらいのレベルのものを出してほしいものである。良い本だ。

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