日本の歴史をよみなおす (全)

網野善彦著
ちくま学芸文庫

ミクロ的な観点から歴史を問い直す

 著者が行った講義をまとめた本……つまり講義録。タイトルに「(全)」とあるのは、元々『日本の歴史をよみなおす』と『続・日本の歴史をよみなおす』の2分冊だったものを、文庫化にあたり1冊にまとめたためである。そのため真ん中あたりに「あとがき」(『日本の歴史をよみなおす』のもの)と「はじめに」(『続・日本の歴史をよみなおす』のもの)があったりしてなかなかユニーク。

 内容は、これまで歴史学で常識として考えられていたようなことがらに疑問符を打つというようなもので、たとえば中世の日本の産業は農業のみのように言われるが実際は広範な商業活動が行われていたとか、室町時代には海のルートがかなり開けていて海運業がかなり盛んに行われていたとか、結構「目からウロコ」の箇所もあって内容は充実していると言える。特に『続』の方に目新しさがあったと感じる。そのため僕自身は『続』の方を先に読んだ。

 扱われているのは、文字(ひらがなとカタカナ)、差別(被差別住民や女性)、天皇家と歴史との関わり(ここまでが前半)、中世日本の経済の多様性、中世の海運ネットワークと金融ネットワーク、荘園の実態など。退屈な箇所もあるにはあるが(特に前半)、「常識」に凝り固まった一元的な歴史観にいかに問題が多いかよくわかるという点で、優れた歴史書であると言える。記述には著者のフィールドワークも反映されているため、説得力もある。歴史学にアプローチしようという人であれば一度は目を通しておきたい、そういう類の良書である。

-日本史-
本の紹介『平安京はいらなかった』
-日本史-
本の紹介『昭和史 1926-1945』