女帝の手記 (1)〜(5)
里中満智子著
里中プロダクション
孝謙天皇と道鏡のイメージを覆すストーリー
孝謙天皇(称徳天皇)を主人公に据え、藤原仲麻呂や道鏡らが登場する異色の時代を描いた歴史マンガ。作者は、『天上の虹』、『長屋王残照記』の里中満智子。
時代背景となるのは、『天上の虹』の持統天皇、『長屋王残照記』の長屋王の時代に続く時代で、この3作で一続きの大河物語であると見なすこともできる。そのため『長屋王残照記』に出てきた登場人物も、本作には多数登場する。
なんせ孝謙天皇が強烈な個性(という印象を与える)であるため、物語になりやすい素材ではある。孝謙天皇の時代、天皇と良好な関係を築いた藤原仲麻呂が台頭し政治の実権を握るが、後に天皇は道鏡という僧を寵愛し、藤原仲麻呂を攻め滅ぼす。その後、道鏡を次期天皇の地位にまで就けようとするが、これは和気清麻呂らに阻止され、逆ギレして(というふうに映る)和気清麻呂の名前を別部穢麻呂と改名させて流罪にするなど、やりたい放題に映る。今の歴史では、かなりの汚れ役として位置付けられているが、里中満智子は、仲麻呂に代表される藤原氏の野心の犠牲になった悲劇の女帝という描き方をしている。
また一般的には道鏡も怪僧のイメージでスキャンダラスに扱われるが、このマンガでは、藤原仲麻呂の暴走を防ぐために、孝謙天皇から重用された、美しい心を持つ僧という描かれ方で、異色である(ただし、やはり両者の間には恋愛関係がある)。しかし歴史の流れの点では整合性がとれており、一編の物語として十分楽しむことができる。逆に、このマンガのような捉え方もできるのではないかとか、少なくとも藤原仲麻呂については、このマンガのイメージが実像に近いのではないかとか考えてしまう。そういう点でもよくできたストーリーと言えるのではないだろうか。
今回は、全巻、電子書籍で読んだが、それほど不自由なことはなかった。このマンガは質が高いんで書籍版を買っても良かったと思うが、一般的な読み捨てのマンガについては、電子書籍でチャッチャッと読んでしまうのもありではないかと感じた。