長屋王残照記1
長屋王残照記2
長屋王残照記3

里中満智子著
講談社コミッククリエイト

マンガとしては可もなく不可もなしだが
歴史上の人物たちの複雑な血縁関係はわかる

 西暦729年に起こったとされる「長屋王の変」の主要人物、長屋王を主人公にしたマンガ。作者は、歴史マンガや古典文学マンガが目下のライフワーク(だと思う)の里中満智子。

 このマンガの時代背景は、文武天皇、元明天皇、元正天皇、聖武天皇までの四代。皇位継承権を持つ実力者であったことから世間で「次期天皇」などと呼ばれていた長屋王も順調に出世を続け、徐々に頭角を現している時代である(最終的には左大臣の地位まで上りつめる)。一方でこの時代は、前右大臣の藤原不比等が天皇家と外戚関係を着々と築きつつある時代で、結局長屋王は藤原氏と利害がぶつかり、左大臣という最高位にありながら、不比等の四人の息子(いわゆる藤原四兄弟)に、政府転覆(冤罪)のかどで攻め滅ぼされる。そのあたりまでが描かれるのがこのマンガである。

 この時代、とにかく血縁関係が複雑で、ちょっと系図を見ただけでは何が何だかわからない。歴代天皇だけとってみても、文武天皇(珂瑠かる)の母親が元明天皇(阿閇あへ)、元明天皇の娘が元正天皇(氷高ひだか皇女、つまり文武天皇の姉)、文武天皇の息子が聖武天皇(おびと皇子)とややこしいったらない。しかも長屋王については、妻は元明天皇の娘(吉備きび皇女)で、長屋王の父方の祖父が天武天皇、母方の祖父が天智天皇である。その辺のややこしさは、物語の中だとある程度解消されるもので、その辺が今回このマンガを読んだ狙いだった。実際、彼らの関係については、ある程度理解できた(すぐ忘れるかも知れないが)。

 そういった狙いは満たされたが、ストーリー自体はオーソドックスな展開で、それほど面白いという要素はない。最初、同じ著者の『天上の虹』(天智期、天武・持統期を扱っているらしい)を読んでみようかと思っていたが文庫版で全11巻(コミックス版だと全23巻!)と長いため、こちらにした。今回3巻本を読んでみて、さすがにやはり11巻は長すぎるとあらためて感じたのだった。こういう類のストーリーを11冊分読むとなると、骨が折れそうという印象である。

 ただし作画は丁寧で、時代考証もしっかりやっているようで、歴史マンガとしては質が高い。またストーリーも、一般的な少女マンガとして考えれば、割合よくできていると言って良いのではないだろうか。もっとも、少女マンガの常で、登場人物がどれも美男美女であり、彼らの識別がきわめて困難になっているという問題はつきまとうわけだが。

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