更級日記・蜻蛉日記
NHKまんがで読む古典2

羽崎やすみ著
ホーム社漫画文庫

日記でも物語風!
しかもテーマは現代的

 またまた古典文学のマンガである。今回は『更級さらしな日記』と『蜻蛉かげろう日記』。そもそもこの両作品が、マンガとして取り上げられるのは珍しい。なんせ元々が日記なんだからドラマとして成立しにくいはず……と思いきや、このマンガはそのあたりうまくまとめられていて、どちらもストーリーとしてできあがっている。しかも『更級日記』は『源氏』オタクの少女の話、『蜻蛉日記』は浮気性の夫に悩むプライドの高い美人妻というふうに、テーマ自体非常に今日的と言える。作画も手抜きがなく、しっかり描かれていて破綻はない。なんでも『更級日記』は著者のデビュー作だそうだが、まったくそれを感じさせない。

 『更級日記』、『蜻蛉日記』は、元々の著者はそれぞれ菅原孝標女すがわらたかすえのむすめ藤原道綱母ふじわらみちつなのははで、要するに本当の名前は残っていない。ということで、このマンガの主人公、つまり(日記だから)原著者にはそれぞれ「サラちゃん」、「蜻蛉の君」という名前を付けて、かれらを主人公に設定し物語として再構築している。そのためストーリーとしては違和感がなく、普通のマンガと同じ感覚で読むことができる。こういうことが実にさりげなく行われているので気付きにくいが、古典の翻案としてはグレードが高いと言える。

 元々はNHKで放送された番組、『まんがで読む古典・更級日記』、『まんがで読む古典・蜻蛉日記』が元になっているらしいが、この番組についてはよく知らない。この放送を基にして描かれたのがマンガ版『更級日記』とマンガ版『蜻蛉日記』で、それぞれ別々の本として出版されていた。それが1冊にまとめられたのがこの文庫版で、全352ページ、それぞれが170ページ前後の作品である。元々1冊2千円弱で売られていた本が1冊にまとめられて、しかも680円で売られているため、とても「お得」感がある。NHK関連だから安いんだろうかと勘ぐったりもしている。

 ちなみに『蜻蛉日記』のイメージはこんな感じ(右の絵参照)。主人公の「かげろうさん」、結構強情でプライドが高く、男からするとちょっと敬遠したいタイプである。この方の独白でストーリーは進むわけだが、どっちかというと夫の藤原兼家の方に共感を覚えてしまった。それに、息子の道綱に対するかげろうさんの態度もあまり気持ちの良いものではない。もちろん現代でもこういう女性、非常に多いけどね。一方で、そのあたりがこの古典作品の価値を一層高める結果になっているんだなと思う。

追記:
 たった今Wikipediaで知ったが、元々NHKで放送された『更級日記』と『蜻蛉日記』は、林真理子が脚本を書いていたらしい。なお、同じシリーズの『枕草子』は橋本治、『伊勢物語』は中沢新一が脚本を担当したということ(どちらも文庫版で出ている)。

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