戦いすんで日が暮れて

佐藤愛子著
講談社文庫

両足で踏ん張って苦境に立ち向かう姿がヨイ

 佐藤愛子の直木賞受賞作。短編集で、表題作「戦いすんで日が暮れて」、「ひとりぼっちの女史」、「敗残の春」の3作が、夫の借金と闘う話である。これらの話は概ね実話に基づいているようで、実際に著者は、経営才覚のない夫が事業でこしらえた借金について債権者に対応したり、あげくにそのうち3千万円以上を個人で肩代わりしたりしている。この3作では、次から次に訪れる債権者に立ち向かい、両足で踏ん張っている1人の女性の姿が描かれていて、登場する主人公は佐藤愛子の分身である。債権者になった途端に態度を豹変させる男や夜中に苦情の長電話を入れる債権者の妻など、人間の嫌な部分も存分に描かれていて、非常にリアルである。経験が基になっていることは疑いない。主人公が夫に対して罵詈雑言を浴びせながらも困難に強く立ち向かっていこうとする姿が痛快で、この3作がこの短編集の目玉と言える。

 その後の「結婚夜曲」も似たようなテイストで、夫が原因で知人に多大な借金を負わせた話となる。これもなかなか臨場感に溢れていて面白い。

 他の作品については、著者がよく書いていた「ユーモア小説」の類の話で、作り物であるためか、グレードは最初の4作に比べて格段に落ちる。数合わせで入れたのかと思えるようなものであるため、前の4作のような経験に基づいた迫力を求める人にとっては不要。文章はさすがに「大佐藤」、大変読みやすく、特に前半の4作はグイグイ引きこまれるんで、途中でやめられない。

 ただし自らが苦境にいるときは、こういった本を読むと気が滅入ること請け合いである。そういう場合はぜひとも避けていただきたい。

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