わたしの小さな古本屋
倉敷「蟲文庫」に流れるやさしい時間

田中美穂著
洋泉社

倉敷の異色古本屋店主のエッセイ

 倉敷で古本屋を営業している若い女性のエッセイ集。

 21歳のときに思い立って古本屋を開業したは良いが、商売だけではなかなかうまく行かないということでバイトを兼務し、しかしやがて父の死をきっかけにバイトを辞め、古本屋一本に絞って今日まで営業を続けている。古書店組合にも入らず、もっぱら仕入れは店頭での買い取りのみという、はなはだのんびりした仕事ぶりである。そののんびりさ加減は著者特有のもののようで、だから書かれた文章もなんだかのんびりしていて心地良い。困った客などについても書かれているが、不快さはあまり伝わってこず、どちらかというとのどかな雰囲気が伝わってくる。店の写真も随所に出ているが、店全体にのんびりした雰囲気が漂っているような気がする。「羊歯しだのぬいぐるみ」(!)とか自作のコケ観察キットなども販売しているらしく、ときどき店の中でライブや展覧会もやるらしい。独自の世界を持つフォーク歌手の友部正人もこの店でライブをやったという。

 エッセイはどれも正統派で、よくまとまっていて読みやすい。内容もウィットが効いていてレベルが高い。古書店の営業という体験の特異さはもちろんあるが、エッセイとしても質が高いと思った。中でも、友部正人がかつて所蔵していた本が店に届いたという「置きっぱなしのブローティガン」が秀逸で面白かった。著者はこの本以外に苔の本も出しているらしくこちらにも興味が湧く。店にも興味が湧くが、訪れるのはちょっと勇気が要るなと勝手に思ったりもしている。

-社会-
本の紹介『13坪の本屋の奇跡』
-社会-
本の紹介『まっ直ぐに本を売る』