まっ直ぐに本を売る
ラディカルな出版「直取引」の方法

石橋毅史著
苦楽堂

トランスビュー方式を隅から隅まで紹介

 現在、日本の書籍は再版方式で販売されている。再版方式というのは、小売店(つまり書店)に定価販売を義務付ける代わりに出版社が返品をいつでも受け付けるという販売方法で、通常であれば独占禁止法に抵触するような内容であるが、書籍の特異性のために認められているのである。新聞なども同様で、これについては昨今異論も出てきてはいるが、現状で、改められる兆しはない。また、書籍販売にまつわるもう一つの特異性としては、書籍の多くが、出版取次事業者(一種の問屋)を通して書店に卸されているという現状がある。当然中間マージンを彼らに抜かれ、書店の取り分は少なくなる。しかも書店が売りたい本がなかなか送られてこないとか、欲しくもない本が大量に送りつけられているとか(もちろん返品は可能だがタイムラグが生じるため資金のやりくりが大変になるらしい)、さまざまな問題が書店側から提起されてきた(『13坪の本屋の奇跡』を参照)。もちろん取次会社が入るメリットもあるらしいので、必ずしも取次が不要とは言えないが、しかし、書店が全国で次々に閉店している現状を鑑みると、出版業界がターニングポイントに差しかかっており、取次システムも変えていかなければならないのは明らかである。

 一方でこういった慣習を排除しようとする動きもあって、『潜入ルポ amazon帝国』によると、書籍販売最大手のアマゾンは、取次を省いて直取引することを各出版社にしきりに持ちかけているらしい。こういう寡占事業者に限らず、小出版社の側も、取次を省いて書店と直取引することで、書店の取り分を増やす(ひいては小規模な書店を存続させる)という目論見を持っているところもある。その1つが本書で取り上げられている出版社、トランスビューで、書店にとって割合有利な条件で直取引を行っているという。取次経由じゃなきゃイヤだという書店に対しては一部取次を介して卸してもいるが、基本は直取引である。しかも注文が来たら翌日または翌々日に届くように手配するというんだから、従来型の取次と比べると破格である。しかも返本にまで対応するというのである。

 そういう条件であるため、トランスビューの方式は広く全国的に受け入れられた。それを承けて、他の出版社からもトランスビューにさまざまな問い合わせがあり、その知名度が広がるにつれて、この方法がトランスビュー方式として知られるようになっていったのである。中にはトランスビューに配送だけ依頼するという出版社も現れ、現在、トランスビューでは、こういった出版社の委託も受け入れて、彼らの書籍も書店に一緒に届けるという取引代行まで行っている。出版社と書店がウィン-ウィンの関係を築いて共存していくというのが彼らの真の狙いということである。

 こういう事情をトランスビューの関係者や出版社、取次の担当者らに取材して、一冊にまとめたのがこの本である。トランスビュー方式に関連する実務やコストまでかなり細かく紹介されており、実際に出版社を立ち上げてトランスビュー方式を採用することさえ可能になるくらい詳細な報告がある。そのためもあって門外漢にはわかりにくい箇所もあったが(特に「実務とコスト」の章)、真摯な出版社を真摯に紹介しようという著者の意図が伝わってきて、気持ちの良い本であることには変わりない。今回『潜入ルポ amazon帝国』で紹介されていたことからこの本に当たったが、アマゾンの暴力的かつ侵略的な方向性と逆行するような草の根的な方向性が嬉しい。こういう方法が支持されて普及し、暴力的な巨人に対抗してほしいと節に願うのである。なおこの本は、大変興味深いことであるが、アマゾンでは販売されていない(アマゾンのデータベースには載っている。上のリンクを参照)。

-社会-
本の紹介『潜入ルポ amazon帝国』
-社会-
本の紹介『13坪の本屋の奇跡』
-社会-
本の紹介『本の雑誌風雲録』
-社会-
本の紹介『私は本屋が好きでした』
-随筆-
本の紹介『わたしの小さな古本屋』
-文学-
本の紹介『店長がバカすぎて』