のんのんばあとオレ (1)(2)

水木しげる著
講談社

日本の民俗学のもう一方の系譜

 水木しげるのエッセイ『のんのんばあとオレ』のマンガ版。かつてNHKでもこの作品を原作としたドラマが放送された。

 『のんのんばあとオレ』は元々70年代に自伝エッセイとして発表された作品で、91年にNHKでドラマ化されている。このマンガ版はドラマ版の一年後(92年)に発表されていて内容もドラマとかなり似ている。ということは、あるいはこのマンガが、ドラマ版のスピンオフなのかも知れない。ドラマには水木しげるも一枚噛んでいるようだったので(冒頭に本人が登場してのんのんばあについて紹介する)、あるいは(ドラマの)プロットを水木しげるが考えたのでないかとも思われるが、詳細はわからない。ドラマ版の『続・のんのんばあとオレ』(92年放送)は、本書の第2巻のストーリーと共通であるため、やはり原案を水木が考えた、あるいはマンガ版が原作になったと考えるのが正しいような気がする。

 それはともかく、内容はドラマと共通であっても、ドラマで見られたようなまだるっこしさがなく、大変テンポよく進む。それにキャラクターが非常に魅力的なのも水木マンガらしい。特に主人公の父親が飄々とした存在であるにもかかわらず、なかなか鋭いセリフを吐く。大変魅力的なキャラクターである。出てくる妖怪もいろいろで、中には「小豆はかり」という気さくな妖怪もいて、こちらも魅力的な存在である。主人公の茂少年(著者の分身)に哲学的なことを語ったりする。

 妖怪や物の怪の存在は元々のんのんばあによって語られ、子ども達がその実在を何となく感じるというような話になっているが、のんのんばあが語る内容は柳田國男の『遠野物語』を思わせるようなものであり、そういう点でこの本には民俗学的な価値も感じる。しかも茂少年は自分で目にした(と思い込む)妖怪を何とか絵にしようとがんばるんだが、結局それが、その後の水木作品に登場する妖怪になるわけで、境港(水木しげるの出身地でこの作品の舞台でもある)周辺に根付いていた民間伝承がマンガという形で記録されたということもできる。日本の民俗学のもう一方の系譜と言っても過言ではあるまい。

アングレーム国際マンガフェスティバル最優秀作品賞受賞

-随筆-
本の紹介『のんのんばあとオレ』
-マンガ-
本の紹介『水木しげるの遠野物語』
-マンガ-
本の紹介『猫楠 南方熊楠の生涯』
-マンガ-
本の紹介『水木しげるの泉鏡花伝』
-マンガ-
本の紹介『マンガ古典文学 方丈記』
-マンガ-
本の紹介『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻』