マンガ古典文学 方丈記
水木しげる著
小学館
最上級の『方丈記』ガイドブック
『マンガ古典文学』は、小学館が2013年から刊行したシリーズで、「小学館創立90周年記念企画」ということになってる。中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズに対抗したのかどうかは知らないが、似たような企画であることは確か。ただ2013年現在刊行が予定されているのは全9巻(そのうち6巻が刊行済み)で、その点中央公論(全32巻)に比べるとチト寂しい。作家陣は、水木しげるの他、里中満智子、長谷川法世、花村えい子、黒鉄ヒロシが両方のシリーズで共通するんだが、ってことはやはり中央公論のシリーズを多分に意識したものではないかと推測できる。
今回取り上げるのは水木しげるによる『方丈記』である。『方丈記』は、災害の記述が多いということで東日本大震災の後注目を集めたが、個人的にはあまり関心がなかった。だがまあ水木しげる作ということで、そういう面で期待して読んだわけだ。それに水木サンは、先の戦争のとき(召集されたとき)に『方丈記』をよく読んでいたというくらい『方丈記』に入れ込んでいたらしいし。
当然のことながらマンガ形式になっていて、水木しげるを模した人物が『方丈記』のストーリーに適宜登場し、『方丈記』の作者である鴨長明と対話したりするんで、純粋に『方丈記』をマンガ化したものではない。また、『方丈記』には記述されていない、当時の社会情勢や鴨長明自身の背景なども加えられている。だがだからといって原作の味を損ねるものではなく、結果的に『方丈記』の内容が非常にわかりやすいものになっている。そういう点で『方丈記』入門としては恰好の素材である。また、巻末に『方丈記』全文が(古文で)掲載されていて、僕はこれも読んでみたが、マンガ版を読んだ後だったこともあり、古文でありながら普通にスラスラ読めるんで大層驚いたんである。それに『方丈記』自体が意外に短いことも今回あらためて認識することになった。さらにこのマンガが『方丈記』全体を完全にカバーしていたことも(原作を読むことによって)あらためて知ったのである。というわけで、これ一冊で『方丈記』入門から読破までこなすことができ、しかもその背景まで理解することができるということで、最上級の『方丈記』ガイドブックになっているのだった。
作画は、水木作品ということで手抜きはなく、質は高い。中央公論のシリーズに『方丈記』が入っていないことを考え合わせると、あのシリーズを補完するものと考えてもよいと思う。なお、この小学館のシリーズ、小学館のホームページで一部「試し読み」ができるようになっていて、いくつか試し読みしてみたが、花村えい子の『源氏物語』がグレードが高そうで興味を引かれた。『伊勢物語』は作品自体には興味があるが、黒鉄ヒロシのマンガがちょっと読むに堪えないという印象である。