成人病の真実
近藤誠著
文春文庫
成人病治療も日本の医療界もぶった斬る!
『がん放置療法のすすめ』の近藤誠が、日本の医療を斬りに斬りまくった快著。著者は、これまでがんの外科手術についてその無用さを訴えてきたが、この本ではがん治療だけでなく成人病の検診と治療全般について詳細に取り上げて分析し、その問題性を指摘して斬っていく。返す刀で日本の医療界の異常さにも斬り込み、名のあるエラい権威のセンセイたちまで実名を挙げて批判していく。まことに痛快ではあるが、こんな本を出した日にゃ近藤センセイ、医学界にいられなくなるのは想像に難くない(ちなみにこの本、元のハードカバー本は2002年に刊行されている)。逆に言えば、医学界の外にいる我々にとっては非常に価値の高い本である。
先ほども言ったように、本書で中心になっているのが成人病の問題で、成人病検診によって「病人」が作り出され、それに対して本当であれば行われるべきでない治療が行われていると訴える。成人病検診では、恣意的な基準値が使用されており、それに収まらない人は「病人」とされる。本来であればまったく問題にならない部分が問題とされ、患者側の不安を煽って、不要な薬物投与や「治療」が実施される。こうして何も知らない庶民は、自らの健康な生活が医療によって台無しにされ、健康が損なわれることになる。要するに、成人病検診自体が無駄どころか有害だというのが著者の主張である。
他にも医療ミスの問題、インフルエンザワクチンの問題に加え、がん検診や腫瘍マーカーの問題まで切り刻んでいく。「インフルエンザ脳症が薬害」とする議論は一読の価値がある。保守的な日本の医療界にとっては「暴論」以外の何ものでもないだろうが。とにかくその切れ味は鋭く、こんなことまで言っちゃって大丈夫かと思わず目を疑うような記述が後を絶たない。極論だという批判もあるかも知れないが、こういった大胆な批判が、医療界が抱えている多くの問題を照らし出す結果になっているわけで、この著書のような主張は決して無下に扱うことはできないと思う。近藤誠のもう1つの代表作と言える快作である。