伊豆の踊り子・温泉宿 他四篇
川端康成著
岩波文庫
よほど興味のある人以外にはお勧めしない
川端康成が若い頃(文壇デビュー前後)に書いた短編小説を集めた選集。収録されているのは、「十六歳の日記」、「招魂祭一景」、「伊豆の踊子」、「青い海 黒い海」、「春景色」、「温泉宿」の6編。それに続いて著者自身が書いた「あとがき」があり、各作品に対する解説や補足が紹介されている。そのあたりは、さすが岩波文庫と感じさせるような配慮である。
内容については、有名な「伊豆の踊子」以外は、全体的に完成度が高くなく、あまりパッとしないという印象。ただ「十六歳の日記」は、自身の祖父を看取ったときの介護日記で、日記程度の荒削りな雑記ではあるが、インパクトがなかなか大きく、読ませるだけの迫力がある。
次の「青い海 黒い海」はシュールレアリズム風で、何が何だかよくわからない。「あとがき」によると、横光利一に絶賛されたらしいが、どこが気に入ったのか皆目見当が付かない。僕に言わせれば、(意欲的かも知れないが)完成度が低いために読みづらく、こういうものを読ませようと試みるのは暴力的だとすら感じる。
「招魂祭一景」と「春景色」は、ある情景のスナップショットみたいな作品で、これも何が面白いのかさっぱり伝わってこない。こちらも読んでいて苦痛を感じた。「青い海 黒い海」同様、公開すべき作品ではなかったのではないかとさえ思う。
最後の「温泉宿」は、やや読みづらさを感じさせる作品ではあるが、それなりにストーリーがあり、まだ読むことができる。モデルがいるということなので、あるいはそのせいかも知れない。『雪国』に近い世界観で、川端作品が好きならすんなり入っていけるんじゃないかと感じた。
総じて、読んで面白いと言えるのは「十六歳の日記」と「伊豆の踊子」のみという印象で、よほど興味のある人以外にはお勧めしない。