墨攻
酒見賢一著
文春文庫
墨家の非攻主義を素材にして
お話を作りました……というストーリー
墨子関連でもう一冊。
墨家の非攻主義の部分を取り上げてものした小説で、「大国が小国を侵略するときに、攻められる小国に大挙して出張し、小国の防衛に協力した」というエピソードを基にして作られたフィクションである。ちなみにこの小説、1992年にマンガ化され、2006年に映画化されている。
ストーリーは、墨家の革離という戦闘職人が、趙から攻められる小国、梁城に赴き、梁の住民を率いて趙軍と戦うという話である。冒頭に魯迅の「非攻」と同じエピソードが出てくるが、後はすべてオリジナルのストーリーで、当然登場人物もほぼ架空の存在である。
話の多くは戦闘シーンでエキサイティングであるが、結局それで終始しているため、エンタテイメントとしては面白いが、あまり残るものはない。着眼点は面白いが、内容としては短編に適した素材かと思う。もっとも全編150ページ程度であるため、読むのにそれほど苦にはならない。
今回読んだのは文春文庫版だが、なんと本編の後に、著者による「新潮文庫版あとがき」と「文春文庫版あとがき」があり、しかもその後に「解説」まである。「新潮文庫版あとがき」は長い割には内容が乏しく、要は「想像を絶するような小説を書きたい」という決意表明程度で、どうということはない(それに無駄に長い)。「文春文庫版あとがき」の方はエッセイとしてはよく書けていてそれなりに面白い。「解説」(小谷真理って人が書いたもの)は正直言ってまったく不要。まあ文庫本の解説は現状概ねそういうもので、DVDに収録されている映画の予告編を思わせるような無駄なコンテンツに成り下がっている。出版社の担当者は、文庫本の解説についてもそろそろ見直したらどうだろうかと思う。
中島敦記念賞受賞
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 墨子』
2021年6月26日
本の紹介『酒楼にて / 非攻』
2021年6月25日