ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 韓非子
西川靖二著
角川ソフィア文庫
密度が濃いためなかなか進まない
『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』シリーズの一冊で、法家の韓非子を取り上げたもの。
『ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』シリーズは、内容があまりに希薄なものやまったく整理されていないものなど、質にばらつきがあるという印象だが、この『韓非子』については、非常に密度が濃く、よくまとめられた本であると感じる。
オリジナルの『韓非子』は全部で55の篇で構成されているが、そのうちの10篇からエッセンスをピックアップし、韓非子の思想を紹介していく。『韓非子』は、基本的には厳格な法律を柱にして国を統治すべきことを主張しているが、そこに至る思想的背景などについても割合詳しく記述しており、そういった部分が55篇に散りばめられているわけだ。この『ビギナーズ・クラシックス』では、主要なエピソードが万遍なく選ばれており、韓非子を知る上で必要十分と感じるほどである。「逆鱗」や「矛盾」、「守株」などの有名なエピソードもしっかり収められており、しかもその前後の部分も出てくるため、こういったエピソードが(単なる面白エピソードとしてではなく)彼の論の中でどのように使われているかまでよくわかる。高校の教科書ではそういう部分が欠けていて、なぜ法家思想が「逆鱗」や「矛盾」と関係するのかさっぱりわからないが、それを補う役割を本書が果たしている。
シリーズの他の作と同様、本書も書き下し文、白文(返り点は付いている)、訳文、解説文の順序で並べられている。解説文は非常に詳細であって、『韓非子』の末端に触れる上で十分であり、なおかつわかりやすい。訳文も、内容をわかりやすくするために原文をかなり補っていることがわかる。そういう点で非常に真摯で丁寧な本であると感じる。冒頭の「韓非子の思想と生涯」という題が付いた解説文も読み応えがある。著者は、韓非子の研究者のようだが、韓非子への愛が伝わってくるようである。
難点は(というべきかどうかわからないが)、それほど厚い本でないにもかかわらず相当密度が濃いため、読み進めるのに多少難儀する点か。そのため、『ビギナーズ・クラシックス 史記』とか『ビギナーズ・クラシックス 十八史略』みたいな軽いノリで読むことはできない。内容が充実していることから、読んでいてもなかなか先に進めないのである。したがって本書に触れるのであれば、毎日少しずつ読んでいくような読み方をしたら良いのではないかと思う。いずれにしても入門書としては、かなりのハイグレードの一冊と言うことができる。