ビギナーズ・クラシックス 小林一茶
大谷弘至編
角川ソフィア文庫
人の世は露の世なれどさりながら
小林一茶は魅力的である。その句の面白さは言うまでもないが、人生自体が激烈である。
幼少時、義母と折り合いが悪く、故郷を追われるように江戸に上り、やがて諸国放浪の旅に出る。こういった生活を数十年間続けるも、やがて父の遺言に従って自分の生家を義母および弟から取り戻すべく訴訟を起こし、長年に渡る係争の末、ようやく家を取り戻すが齢すでに51歳。当時としてはすでに老人である。
その後、28歳の妻を娶り、長男が生まれるがすぐに死去。その後長女も生まれるが1歳で死去。次男もすぐに死去。自らは中風(脳血管疾患)で半身不随になる(後に治癒)。三男が生まれるがこれも死去、続いて妻も死去。後妻とはすぐに離縁。64歳で再々婚、その後家が火事にあって焼け出され土蔵暮らしをしているうちに本人も死去する(享年65歳)。
その折々に当然俳句を作っているが、それには彼の生き様や哀感が反映されている。一茶といえば「痩せ蛙」や「そこのけ」が有名だが、単にそれだけの人ではない。娘が死んだ後に詠んだ「露の世は露の世ながらさりながら」の哀感と諦観は胸に染みる。
この本は入門者向けで、こういった一茶の生涯とそれに伴って詠まれた俳句を紹介していく。一茶の俳句といえば生涯で2万を超えるとも言われ、すべてを読むことは(一般読者には)到底不可能であり、こういった形で傑作を紹介してもらうというのが、我々一般の読者には一番良い形ではないかと思う。本書に掲載されている俳句は、主題として引用されているものが80句弱、他にも20〜30句ほどが適宜本文の中で引用されている。中には推敲の過程を示している箇所もあったりして、ドラフト段階の俳句がどのように変化しているかも見て取れる。本書の編者(というより事実上著者であるが)は俳人でもあり、一茶に対する共感にも溢れている。一茶の人生や人となりが窺える、大変良い本である。