古典和歌入門

渡部泰明著
岩波ジュニア新書

匂ひ立つ いにしへびとの雅にも
今に連なる愛欲を見る

 奈良時代から鎌倉時代に詠まれた和歌を48首取り上げ、どういう風に詠まれたか、どういう味があるかなどを解説した和歌入門者向けの本。和歌をはさんで話が語られるなど、どこか「歌物語」を思わせるような構成である。取り上げられた歌ごとに1首あたり4ページずつ割り当てられ、それが「四季」、「恋」、「ぞう」、プラス「祈り」の四部構成でまとめられている。ちなみに前の三部(「四季」、「恋」、「雑」)の分け方は勅撰和歌集で採用されている分け方(だそうだ)。それを考えると、なかなか凝った作りと言える(なお「祈り」は著者の思い入れのたまもの)。

 各項が4ページでまとめられているため、ちょっと暇なときに拾い読みするというような読み方もできる。どの項も、著者の和歌に対する愛情が溢れ出ているようで、読んでいて大変面白い。歌の魅力も十分伝わってきて、和歌というものが決してカビくさいものではないということがわかる。各項では、その話題に関連する歌が他にも何首かずつ取り上げられているため、実質的にはかなりの数(百首程度か)の和歌がこの本一冊で紹介されていることになる。

 しかも巻末に詳細な歌の索引、解説(あとがき:和歌の概論のようになっている)なども完備されていて、本の体裁としても申し分なし。古文学習者にはうってつけの入門書で、なかなかの力作である。真摯に作られた本というのはこういう本を言う。

-古文-
本の紹介『和歌のルール』
-古文-
本の紹介『「古今和歌集」の創造力』
-文学-
本の紹介『短歌をよむ』