ビギナーズ・クラシックス おくのほそ道 (全)

松尾芭蕉著、武田友宏編
角川ソフィア文庫

格好の『おくのほそ道』入門書
だが完全版でもある

 松尾芭蕉の代表作、『おくのほそ道』を、古典入門者向けに紹介した本。章ごとに訳文、原文、解説を並べて紹介するという構成で、このあたりは他の『ビギナーズ・クラシックス』シリーズと共通である。なお本書については、原文が全文収録されている完全版である。

 『おくのほそ道』は、俳人・芭蕉の紀行文としてつとに有名だが、俳人だけに文章もきわめて省略が多く、しかも歌枕(かつて和歌で読まれた名所)を訪れる、つまり聖地巡礼がコンセプトの本であるため、元の和歌を知らないと内容がさっぱりわからないという箇所が多い。つまり、相当な知識と読み込みがなければなかなか読解は難しい書なのである。現在(そしてかつても)全国の中学の国語科で『おくのほそ道』が教えられているが、そういう点で、これを中学生に教えることが正しいことと言えるのか、僕自身は大いに疑問に感じている。自分自身のことを振り返ると、中高時代から大人になるまで『おくのほそ道』についてまったく面白いと思った経験がなく、それはそもそも、和歌や俳句について大した知識もない学生が接するには『おくのほそ道』が難しすぎたせいではないかと今になって思うのである。したがって、『おくのほそ道』を読んで曲がりなりにも内容を理解するためには、相当量の解説が必要であると考える。その点で、本書ぐらい詳細な解説が載っていれば、おそらく『おくのほそ道』についてかなりの程度理解することができる。また編者による原文の現代語訳もきわめて的を射ており、大変読みやすい現代語版になっている。

 ただ、このシリーズ全般について言えるが、なぜ原文、訳文、解説の順にしないのだろうかと思う。筋としてはこういう流れで読みたいと僕自身は考える。そのため、このシリーズの本を読むときは、毎度毎度ページを前後に行き来するはめになるのだ。製作側としては、意味がわかった上で原文に当たれという主張なんだろうが、僕自身はやはり、原文、訳文の順序の方が自然だと思う。

 本書については、他にも地図や芭蕉の年譜、『おくのほそ道』探求情報などが巻末に添えられていて、これも有用で、至れり尽くせりの感がある。挿絵も随所にあり非常に親切である。

-マンガ-
本の紹介『奥の細道―マンガ日本の古典 (25)』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 小林一茶』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 土佐日記 (全)』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 梁塵秘抄』
-古文-
本の紹介『ビギナーズ・クラシックス 雨月物語』