ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ブレイディみかこ著
新潮社

英国社会の実態から
日本社会の病理を逆照射する

 英国で保育士をしているブレイディみかこという人のエッセイ。中学生になる息子の周辺を描きながら、英国の社会システム、差別に対する取り組みなどを紹介していく。

 著者の息子は、小学校時代、カトリックの公立小学校(優秀な学校らしい)に通っていたが、その後は少し毛色の違う地元の中学校(著者は「元底辺中学校」と呼ぶ)に進学した。カトリックの公立小学校からはカトリックの公立中学校(こちらも名門校らしい)に進むのが一般的であるにもかかわらずである。また、この地元の中学校は、下層階級の白人家庭の子女が多く、そういった家庭は過剰に保守的で差別的だったりする。一方、英国全体では移民が増えていることもあり、差別に対して断固とした態度を取るという教育が進んでいる。この元底辺校もそこは同じであるが、それでもアジア系の人々などは、地元の不良少年から差別的な侮辱を浴びせられたり、差別的な扱いをされたりすることもあるらしい。子どもたちはそんな中、何が問題であるかを教えられたり、自ら考え感じたりすることで、差別的な扱いにどのような問題があるか学習していき、多様性を重んじることの重要性を知っていく。このようにして新たな価値観を身に付けていく子どもに対し、著者は親として接していくわけだが、そのあたりの事情を保護者からの視線で追体験していくというのがこのエッセイのエッセンスと言って良いだろうか。同時に英国の社会事情についても詳細に紹介されているため、実際に英国に赴いて住み始めたときと似たような発見や驚きが随所にある。そのため、親子関係や夫婦関係の面白さに加え、「英国の日本人」という観点からの面白さもある。

 エッセイは全16本で、元々は『波』という雑誌に連載されていたもの。全体を通じてほぼ時系列で話が進んでいるが、1本1本よくまとまっているため、非常に面白さを感じる。文章自体がうまいため、大変読みやすい。何より英国の階級社会の実態がよくわかる。英国の階級というと、非常に堅固な印象があったが、現実的には今の日本とそれほど異なるわけではないという印象である。逆に言えば、現代日本の社会で、貧富の差が広がり、英国の階級社会に近づいているということになるのか。ともあれ、いろいろと考えさせられることの多い良書であった。

第73回毎日出版文化賞特別賞他受賞

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