蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)

矢口高雄著
講談社文庫

矢口高雄の描く日本の原風景と
麗しき中学時代

 『釣りキチ三平』でお馴染みの矢口高雄。というか、元々それぐらいしかこちらに予備知識がなく、しかも僕自身は子ども時代に釣りにまったく興味がなかったため『釣りキチ三平』すら読んだことがないと来ている(『少年マガジン』はちょくちょく読んでいたが『釣りキチ三平』はとばしていた)。だが数年前、同じ著者の『奥の細道』を読んだときは非常に衝撃を受け、この人にこれだけの才能があったのかと、矢口高雄を知って数十年経ってから初めて感心したという次第。

 今回、エッセイ(『ボクの学校は山と川』)を読み、それに伴ってエッセイ・マンガ(つまりこの作品)も読んでみたんだが、絵といい内容といい超一級で、こちらも感心することしきり。

 この作品で描かれるのは、タイトルからわかるように矢口氏の中学生時代の話で、舞台は戦後すぐの時代、秋田県の山間の小さな村である。なんせものがなかったため、遊びは自分たちで見つける、必要なものは自分で作るという具合。中学校も少し前まで小学校の傍らに分校として併設(というより間借りみたいなものか)されていたという有り様である。ただし中学校はその後、村に新設されたらしいが、それでも体育館もグラウンドも校門もない間に合わせみたいな建物である。実はこの校門については、最初のエピソード「第1話 校門を掘る少女」で触れられていて、のっけから非常に感動的な話が披露される。他にも「第2話 ホームソング」と「第5話 成瀬小唄」が中学校自体のエピソード(担任教師、小泉先生が非常に魅力的)でどちらも感動を呼ぶ話である。残りの「第3話 吹雪がくれたプレゼント」と「第4話 田植えのプロセス」が日常生活のエピソードである。第1巻はこの5話で構成されているが、どれも質が高く、しかも密度が濃い。絵は言うまでもなく丁寧で美しく、矢口高雄の才能にあらためて気付かされる思いがする。

 なお、本書に収録されているエピソードは、多くが『ボクの学校は山と川』でも紹介されている。僕の個人的な感覚で行くと、(両方読むというのであれば)エッセイを読んでからマンガを読む方が良いような気がするが、マンガだけでも十分ではある。ともかく今回、矢口高雄という作家への興味が俄然膨らんだのであった。

-マンガ-
本の紹介『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)』
-マンガ-
本の紹介『オーイ!! やまびこ (1)〜(5)』
-マンガ-
本の紹介『ボクの手塚治虫』
-随筆-
本の紹介『ボクの学校は山と川』
-随筆-
本の紹介『ボクの先生は山と川』
-マンガ-
本の紹介『マタギ』
-マンガ-
本の紹介『おらが村』
-マンガ-
本の紹介『奥の細道―マンガ日本の古典 (25)』