おらが村
矢口高雄著
ヤマケイ文庫
矢口高雄の原点と言える作品……かな
1973年発表の作品だから、矢口高雄の「ふるさとマンガ」としてはごく初期の作品と言えるのではないか。秋田の山奥で暮らす高山家の話で、田舎暮らしが淡々と描かれ、劇的な要素は少ない。スポ根マンガ全盛の当時に、こういうマンガの連載が存在したこと自体かなり意外な感じがある。初出は『週刊漫画アクション』ということで、少年向けではなく青年向けだったことが推測されるが、それでも当時の感覚からいくと異色だという印象はある。
ストーリーは、今読むと非常に洗練されていて、映画化、ドラマ化しても十分魅力が出るような話である(地味目ではあるが)。主人公の1人は「かつみ」という高校生の女の子だが、その後(1976年に)矢口高雄は『かつみ』というタイトルのマンガを発表していて、似たようなキャラクターが登場するし、かつみの父親の高山政太郎も、似たような存在が『ふるさと』に登場する。また、『ふるさと』では本書と同じネタ(東京から嫁に来る話)が再利用されていたりもする。そういう点で、この作品が著者にとっても原点みたいな役割を果たしていると考えられ、著者としてもこのマンガが気に入っていた(だから他のマンガで再利用した)のではないかと推測する。
ただ僕としては、後の『蛍雪時代』や『オーイ!! やまびこ』などの自伝的作品を読んでいて、そちらを非常に高く買っているため、やはりこういった自伝的作品の方を推したい。自伝的作品の方が、本作のような純粋なフィクションよりもはるかに迫力を感じるのである。『ふるさと』を読んだときにも感じたが、何だか奥歯に物が挟まったみたいな、というか「間接的」と感じさせるような表現に少々まだるっこしさを感じる。やはり自伝的作品のストレートな(と感じられる)表現の方が、はるかに上を行く。それがわかっているだけに、本作については多少の物足りなさを感じたわけだが、とは言ってもこの作品が持つ本来の価値は決して損なわれることはない。
今回読んだのは、先日紹介した『マタギ』同様、山と渓谷社が出した800ページを超える文庫版である。言ってみれば絶版本の復刻版というようなもので、こういう企画については歓迎したいところだ。値段もまあリーゾナブルだし、何よりポータブルなのが良い。そもそも「絶版本の復刻」自体が、非常に大きな価値を持つ。山と渓谷社には、この本についても、早々に絶版にしたりしないようお願いしたいものである。