ボクの先生は山と川
矢口高雄著
講談社文庫
故郷、家族への愛に溢れたエッセイ
矢口高雄の前著『ボクの学校は山と川』に続いて、マンガ作品『蛍雪時代』を読んだ後にこの本に戻ってきたため、エッセイのインパクト自体は、前著と比べると小さい。『蛍雪時代』を読んでしまっているから致し方ない。本書第四章の「蛍雪のころ」に収録されているエピソードの多くが、『蛍雪時代』で再構成されており、その多くは、『蛍雪時代』を読んだときにことごとく心に染みた作品である。本書に収録されているエッセイはまさにその原形である。
本書のエッセイ「闇米屋先生」、「石運び」、「長期欠席児童」は『蛍雪時代』の「第10話 想い出づくり」として、それから「グランド造り」、「陸の祭典」、「聖火燃ゆ」は『蛍雪時代』「第11話 聖火燃ゆ!!」として、さらには「ホーム・プロジェクト展」、「七人の侍」、「校門を掘る子」はそれぞれ『蛍雪時代』「第7話 ホームプロジェクト展」、「第6話 七人の侍」、「第1話 校門を掘る少女」としてマンガ化されている。第四章以外の他の多くのエピソードも『蛍雪時代』に登場するし、『蛍雪時代』にないものは、おそらくマンガ作品『オーイ!! やまびこ』でマンガ化されているのではないかと思われる。というのは、本書のいろいろな場所にマンガ作品からピックアップされたカットが掲載されているためで、ほとんどは『蛍雪時代』のものだったが、見覚えのないものもいくつかあり、これが『オーイ!! やまびこ』のものではないかと勝手に推測したわけである。
前にも少し書いたが、矢口作品の場合、マンガの方がエッセイより圧倒的にできが良いため、エッセイ、マンガの順で読む方が絶対に良い。エッセイの方も非常にうまくまとめられていて、なかなかの名文章なんであるが、いかんせんマンガと比べるとダイジェスト的と言わざるを得ない。逆に言えば、マンガ作品にはそれくらい力が込められている。同じ描写の箇所をエッセイとマンガで比べてみるとそれがよくわかる。どちらも優れた作品であるため、エッセイ、マンガの順で読んだら両方楽しめるということである。
なお、今回読んだ文庫版には、先ほども言ったように、オリジナルの白水社版の単行本にさらにマンガのカットが加えられ、あわせて修正、加筆なども行われていて、文庫版は本としての完成度も非常に高い。しかも矢口高雄のデビュー作、『長持唄考』まで収録されている。この作品自体、本書に収録されているエッセイ「囲炉裏考」に関わる内容であるため、あえて間に挿入したようだが、これが非常に良い効果を出している。他の矢口製マンガ作品同様、この文庫版もサービス満点という印象である。
それにしてもこの『長持唄考』の完成度の高さには驚かされる。これがデビュー作かというほどの完成度で、作画、ストーリーともその後の矢口作品と同レベルである。デビュー作と言われなければ絶対に気付かないんじゃないかと思う。