蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)
矢口高雄著
講談社文庫
なんという中学校! なんという中学生!
矢口高雄の自伝的エッセイ・マンガ『蛍雪時代』の第2巻から第5巻。
第2巻が「第5話 成瀬小唄 Part 2」、「第6話 七人の侍」、「第7話 ホームプロジェクト展」、第3巻が「第8話 火の石の謎」、「第9話 東嶺の末裔…?」、「第10話 想い出づくり」、第4巻が「第11話 聖火燃ゆ!!」、「第12話 見える魚は釣れない」、「第13話 ケンカ嫌い」、「第14話 友情」、第5巻が「第15話 スイカ談義」、「第16話 市助落し」、「第17話 雪の夜」、「エピローグ」の各章でそれぞれ構成されている。すべて、著者の中学時代を回想した話であるが、第9話と第16話は、途中江戸時代の話(どちらもかなり長い)がさりげなく挿入されている。それぞれの話にはいくつかのエピソードが入っているが、どれも1本のテーマにしっかり集約されていて、1話のストーリーとして完成度が非常に高いと感じる。
またその内容も驚きの連続であり、生徒会主催(ちなみに著者は生徒会長)でグラウンドは作るわ、運動会はやるわ、映画会はやるわ、修学旅行の費用は稼ぐわで、あまりにアクティブで凄すぎである。しかもどれも生徒たちが自主的に決めたもの(先生も協力するが)であり、いくら時代も地域も違うとは言え、これが本当に日本の中学生かと驚くばかりである。しかもそれに協力してくれる先生たちも、親身で優しく、しかも一緒になって楽しんでいる。
特に担任の小泉先生は、「第17話 雪の夜」で描かれるが、雪の中、主人公の家(学校から8kmもある山の中)までやって来て、中卒後就職予定だった高雄の高校進学を両親に拝み倒すということまでやっている。この話は『ボクの学校は山と川』にも出てきて非常に感動的な話なんだが、マンガでは内容がさらに詳細に描かれ、しかも映像的な表現が随所にあって、この書の白眉と言って良い一編である。著者がこの中学校で経験した教育は、まさに一つの理想的な形と言える。
同時に著者の学校以外の私生活も素材になっており、手塚治虫に憧れマンガに凝ったり、重労働の畑仕事や雪下ろしを手伝ったりという一面も描かれる。
なお、この書で描かれている内容は、同じ著者の他の自伝的なマンガ(『オーイ!! やまびこ』など)やエッセイでも取り上げられており、重複する箇所がそこそこ見受けられる。ただすべて描き直しているようで、そのあたりも著者の誠実さが伝わってくる。作画も非常に丁寧で、絵は美しい。エッセイではわからなかった情景、たとえば村の様子や市助落しの渓谷なども、著者自身が描いているため、非常にわかりやすい。矢口マンガ、特にこの作品は、僕にとって近年一番の収穫であった。