ボクの学校は山と川

矢口高雄著
白水社

不便な生活も楽しみに変えて生きる

 『釣りキチ三平』でお馴染みの矢口高雄が、自身の小学生時代・中学生時代の思い出を描いたエッセイ。

 著者は、秋田県平賀郡増田町狙半内さるはんないという、山奥の戸数70戸の小さな村で育ったため、遊びはすべて自然の中という環境であった。しかも6歳のときに終戦を迎えたため、小中時代は手探りの戦後民主主義の時代とピッタリ付合する。そのためか、著者が受けた教育は、戦前の画一的な暗い教育ではない。一種の混沌に近い環境とも言えるが、それがために著者は野生児のようにのびのびと育つことになる。このエッセイを読むと、自然の生活を縦横に楽しんでいる様子が窺われるため、羨望に近い感情すら起こってくる。まさに「学校は山と川」というような状況なのである。ただ羨望を感じると言っても、実際のところは、半年間は雪に閉ざされる環境で、学校に行くにも8kmの道のりを雪の中を漕ぎながら進むという有り様で、朝6時に家を出ても学校に間に合わないというような厳しい生活環境である。また、家の農作業の手伝いも始終やらされるし、食い物も少ないしで、今の環境、あるいは僕が子どもの頃の環境の方がはるかに恵まれているのは明らか。こういった厳しい環境であっても、彼らはいろいろなことを楽しむ術を知っていたというのが、本当のところではないかと思う。その中でも矢口少年は趣味が多彩だったことから、忙しい子ども時代を送っていた。手塚治虫の影響でマンガに没頭し、同時に魚釣りや昆虫採集にも忙しく、さらに言えば野生の動物を獲ったりもする。水木しげるも子ども時代趣味で忙しかったらしいが、こういった好奇心が彼らの創作の源なのではないかと考えたりする。

 本書は、矢口少年の趣味にスポットを当てて、マンガ(小学校編、中学校編)、釣り、昆虫、その他の遊び、思い出のクラスメートという6つの章立てになっており、短編のエッセイが合計48本収録されている。中でも中学校の先生の思い出を描いたエッセイ(「あの雪の夜」)と破天荒なクラスメートを描いたエッセイ(「竹馬の友」、「友情」)が出色。

 文章もマンガと同様丁寧で、しかもまとまりがあって読みやすい。構成もきちんとしている。ある意味、模範となる文章と言ってよく、実際、この中から学校の教科書に採用されたものもあるようだ。しかも本書には著者のオリジナルのカットまで付いており、申し分がない。非常に質の高いエッセイ集である。

追記:

 なお、この本には文庫版もあるが、文庫版には、弟を亡くしたときのエピソード(「弟の死」、本書に収録)をマンガ化した作品、「百日咳」(オリジナルは『オーイ!! やまびこ5』で、140ページ近くある大作)も収録されている。また、いろいろな矢口作品からピックアップしたマンガが新たにカットとして加えられている。買うんなら文庫版が絶対お得(どちらも現在品切れ中〈もしかしたら絶版?〉だが)。

-随筆-
本の紹介『ボクの先生は山と川』
-マンガ-
本の紹介『オーイ!! やまびこ (1)〜(5)』
-マンガ-
本の紹介『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (1)』
-マンガ-
本の紹介『蛍雪時代 – ボクの中学生日記 (2)〜(5)』
-マンガ-
本の紹介『ボクの手塚治虫』
-マンガ-
本の紹介『マタギ』
-マンガ-
本の紹介『おらが村』
-マンガ-
本の紹介『奥の細道―マンガ日本の古典 (25)』
-教育-
本の紹介『学校の「当たり前」をやめた。』
-教育-
本の紹介『「みんなの学校」がおしえてくれたこと』
-社会-
本の紹介『学校って何だろう』