カポーティ短篇集
トルーマン・カポーティ著、河野一郎訳
ちくま文庫
翻訳レベルでもう少し工夫が欲しかった
映画の『アラバマ物語』を先日見た関連で、トルーマン・カポーティの著作を読んでみた。
そもそもカポーティと聞いても、映画『ティファニーで朝食を』の原作者という程度の知識しかそれまで無く、大して興味もなかったが、『アラバマ物語』に出てくる子どものモデルが実はカポーティだったと聞いて(『アラバマ物語』の著者、ハーパー・リーとカポーティが幼なじみだったため)、俄然興味が湧いたのである。そういうわけで今回、この短編集と代表作の『冷血』(こちらはハーパー・リーも取材などで関わっていたらしい)を古本で買ってみたというわけである。
この『短篇集』では12本の短編小説が取り上げられており、そのうちの5本は「旅のスケッチ」として分類されているもの(『犬は吠える』という作品集に収録されている作品だそうだ)で、言ってみれば「旅もの」である。5本が続きものみたいな印象で、面白いものもあるにはある(たとえばペットのカラスを描いた「ローラ」)が何だかピンと来ないエッセイみたいなものが多い。
他には「もてなし」がカポーティの子ども時代(叔母さんに厄介になっていた頃)の話で、舞台はまさしく『アラバマ物語』の地である。『アラバマ物語』を見た人にとっては情景が思い浮かぶようである。また、よくできた話でもある。「窓辺の灯」は心温まる話(真夜中の田舎道に放り出された主人公が、ある一人暮らしの老婆の家に泊めてもらう話)だが多少オカルトめいていてオチがなかなか秀逸であった。おそらく短編として一番まとまっていてよくできているのが「銀の酒瓶」で、アメリカの田舎町(おそらく著者の少年時代に過ごした町)のちょっとしたエピソードである。映画、『ラスト・ショー』のような空気感を感じた。
この本の訳者は、カポーティの作をいち早く日本に紹介した人らしく(そういういきさつで翻訳も担当した)、特に最後の「無頭の鷹」に思い入れがあるようだが、この作品については、原作が悪いのか翻訳が悪いのかわからないが、説明不足と感じる場面が多く、読んでいて情景の把握が難しく感じる箇所が非常に多かった。そのため何度も前後に行ったり来たりしなければならず、しかもリズムも非常に悪く読みづらいし、この作品自体、完成度が低いとすら感じた。カポーティ自身は「音痴には聞こえないだろうが、この作品にはある独特のリズムがある」と語っていて自信作のようだが、少なくとも僕には(音痴であるせいかわからないが)、この日本語版から独特のリズムは聞こえなかった。話自体は『ティファニーで朝食を』と似たようなストーリーである。
総じて、まずまずの短編集で、読んで損はないという作品集ではある。でもやはり、「無頭の鷹」については、翻訳レベルでもう少し読みやすくする工夫はなかったのかと思う。