砂糖の世界史

川北稔著
岩波ジュニア新書

意外性のある歴史的事実が目白押し

 砂糖がヨーロッパ史、世界史に大きな影響を及ぼしたことを説いた本。

 砂糖は、今やどこででも手に入る商品で、むしろカロリー過多に繋がるために悪者扱いされているほどではあるが、当然のことながら、砂糖が稀少という時代はあった。

 元々砂糖は、インド原産とされるさとうきびを絞って抽出することで作られ始めたが、これがやがてイスラム圏に伝わり、さらに十字軍を通じてヨーロッパにまで拡大していった。ヨーロッパで通商が拡大する時代になると、砂糖は高級品として取引されるようになる。そもそも魅力的な甘味を持つ砂糖は、世界中で受け入れられる商品(本書ではこれを「世界商品」と名付けられている)であったため、価値が高かったのである。

 そのため大航海時代になると、ポルトガルが新大陸にさとうきびを持ち込み、同時にアフリカから大勢の黒人を拉致し奴隷化して砂糖の生産に当たらせるということを始めた(いわゆるプランテーション)。こうして16世紀以降、砂糖生産の拠点が中南米に移っていき、砂糖の生産も拡大していく。

 中でも砂糖を大量に消費したのが英国で、当初は薬として、やがては高級な嗜好品として消費されるようになった。これに伴い、英国自体もジャマイカなどの西インド諸島に砂糖プランテーションを作ることで生産を拡大していく。いわゆる三角貿易(英国からアフリカに武器を送り、それと引き換えにアフリカで奴隷を調達して、その奴隷を中南米に送り込んでその代わりに砂糖を調達し本国で売りさばく)が活発に行われるようになるのもこの頃である。また、貿易の拡大に伴って中国から輸入されるようになった茶と組み合わせる、つまり紅茶に砂糖を入れるという高級品同士を組み合わせた習慣が上流階級で流行するようになるのもこの頃で、これに伴って砂糖の消費量がさらに増加していく。

 その後、産業革命の時代になり、安価な工場労働力が必要になると、労働者のカロリー補給源として砂糖が活用されるようになる。これまで上流階級の習慣だった「砂糖に紅茶」が労働者の眠気覚ましとカロリー簡易補給の用途で利用されるようになっていき、砂糖消費は大幅に増加したのだった。

 本書では、このような砂糖から見た世界史がわかりやすく描かれており、砂糖が世界史においてかなり重要な役割を果たしてきたという意外な事実がわかるようになっている。また、英国のコーヒー・ハウス(つまり喫茶店。ここでも砂糖が大量に消費された)についても触れられており、政党、株取引、保険がコーヒー・ハウスで発祥したという興味深い事実も丸1章を費やして紹介される。

 全編、意外性のある歴史的事実が紹介され、読んでいて興味が絶えることがない。あくまで概説的で、広く浅くというコンセプトであり、細かい箇所がわかりにくい部分もままあるが、知的好奇心をくすぐるような要素が多い。現代の南北問題のルーツが砂糖貿易にあったということも良くわかり、現代社会をその背景から捉え直す意味でも有用である。総じて、大学の、優れた教養課程の授業のような感覚に近く、歴史に興味を持つ人にとっては十分楽しめる本なのではないかと思う。

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