ロスジェネ社員のいじめられ日記

山下和馬著
文藝春秋

ブラック企業を疑似体験

 『日系パワハラ』というウェブ・サイトの連載を本にまとめたもの。最近こういうタイプの本が多いが、内容が面白ければ、特にそれに異存があるわけではない。実際この本はなかなかのもので、こういった内容の本は従来のルートだとなかなか出版に至ることはないため、ウェブ→書籍という流れに適した素材だと言える。

 著者は、大卒後、苦労して某ベンチャーキャピトルに就職を果たすが、その会社がどえらいところで、ノルマ地獄やサービス残業はもちろん、いじめやパワハラが日常茶飯のブラック企業であったという。数年間務めて、かなりの営業成績を残しながらも、結局転職し今に至るが、それまでの過程をマンガと簡単な解説文で紹介するというのがこの本。

 このベンチャーキャピトル、体質が問題なのは言うまでもないが、それ以上に社長をはじめとする上層部がもうどうしようもない連中で、上に取り入り下に圧力をかけるという見下げた根性の持ち主が多数君臨していて、結局は悪しき官僚機構を形作る結果になっている。ただ行政組織ならいざ知らず、民間組織がこんなに腐敗していたんでは、存続すら危ぶまれるじゃないかと思うがどうなんだろう。彼らはそういうことに気が付かないのか、あるいは自分さえよければ良いと思っているのか知らんが、まったくもうどうしようもない。そしてそういう企業の内情というのは、外からは見えないものであるため、関係者がこういう形で提示してくれると大変ありがたいものである。こういう愚かな企業、集団が日本にはびこっていることを広く公表し、改善の第一歩にすべきなんだ、ホントはね。

 この本を読んでいると、自分がブラック企業に籍を置いているような疑似体験ができるんで、自ら当事者と同じようにこういう組織について思いをめぐらせることができる。この企業について言えば、どうも体質的に大学の体育会を思わせるような全体主義的な部分があって、そういう部分が組織と個人に悪く作用しているように思える。組織では、根本的にこういった体質を一掃しなければ、風通しが悪くなって結局は腐敗するのが目に見えているものだが、コントロールする側が暗愚だとそういうことができないんだろうなーと思う。素人考えでは、上司の理不尽な言動には反論すれば良いじゃないかとつい考えてしまうが、1社員が改善を試みたところでつぶされるのがオチで、結局は集団の力で倍返しされるんだろう。こういう企業はサイコパスと同じで近付かないのが一番。間違って入ってしまったら自分がボロボロになる前に早めに辞めてしまうのが一番なんだろうなというのがよくわかった。

 本自体は、内容は相当シリアスなんだが、とぼけた味わいのマンガが楽天的な雰囲気を醸し出していて、読む上で苦痛に感じることはまったくない。このあたり、吾妻ひでおの『失踪日記』と通じるものがある(もちろん吾妻センセイほどのうまさはないが)。だがマンガの素人がこれだけのものを描けるというのも意外で、インターネットがなければ拾い上げられることもなかっただろうなと思う。いずれにしても、いろいろな意味で非常に今風の本ではある。

-社会-
本の紹介『電通マンぼろぼろ日記』
-社会-
本の紹介『消費者金融ずるずる日記』
-社会-
本の紹介『督促OL 修行日記』
-社会-
本の紹介『潜入ルポ amazon帝国』
-思想-
本の紹介『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』
-思想-
本の紹介『ブルシット・ジョブの謎』