ズニ族の謎

ナンシー Y. デーヴィス著、吉田禎吾、白川琢磨訳
ちくま学芸文庫

発想は斬新だがまだ試論段階

 アメリカ大陸にヨーロッパ人が来る以前、アメリカ中西部(ニューメキシコ州あたり)にプエブロ族と呼ばれるアメリカ先住民(インディアン)が住んでいた。彼らはレンガ造りの家に住み独特の集落を形成していたが、他の先住民同様、後にスペイン人に征服されることになる。プエブロ・インディアンとひとくくりに呼ばれることが多い彼らであるが、実は25以上の部族がある。その中に他のプエブロ族と少々異なる特異な文化を持つズニ族という部族があった。そのズニ族のルーツが日本人なんじゃないかという仮説を紹介するのがこの本である。

 ズニ族は、相貌、言語体系、習慣、文化など、多くが独特で、それは研究者の間でも謎とされてきたが、著者は、それが日本由来のものであるという仮説を立て、ズニと日本との共通性を論じている。ちなみに著者はアメリカの人類学者。

 まず最初に、ズニの遺物から考察を進めていき、日本との共通性を見ていく。次にズニの人々と日本人の肉体の形質的な共通性、それから言語の共通性、家族関係の共通性、文化の共通性(ズニにナマハゲのようなものがある。表紙絵参照)、宇宙観の共通性などについて検討していく。言語の共通性ではさまざまな単語レベルでも共通なものを取り上げている(「山」がズニ語で「yala」、「カラス」が「kalashi」など)が、一部、日本人の我々から見れば深読みが過ぎるようなものまである。それについては訳者(同じく人類学者)が訳注で突っ込みを入れている(著者に確認、了承済みらしい)。とは言っても言語的な共通性が見て取れるのは明らかである(特に音韻系)。最終的に、ズニの伝承や遺跡から、14世紀ごろ(およびそれ以前)に日本人の集団が渡ったのではないかと結論付ける。

 もちろんこれだけ共通性を並べてもすぐには結論が出ないのがこういう学の特質で、また、この本自体が学術論文の延長みたいなもので、いずれにしても試論レベルである。非常にユニークな発想だが、書籍としての完成度は低く、読みづらいのも事実。ただし著者の議論に一定の説得力があることも加えておきたい。これまで、日本(およびその他のアジア諸国)からアメリカ大陸に到達した船や物がアメリカ大陸の沿岸部から結構な量出ているらしい。太平洋に海流があって、それが巨大なハイウェイの役割を果たしているのは有名な話で、実際にヨットや筏で太平洋を渡った日本人もいる。古代に日本人が南米に渡っているという説を唱えている歴史家もいる(アメリカ大陸の先住民と日本人のDNAが著しく酷似しているという話も以前聞いたことがある)。決して荒唐無稽とは言えない話で、いずれ時間が証明する事項だと思うが、今後展開するであろうこのような研究のたたき台としてこの論文があると考えることもできる。したがって試論として十分な価値を持つ本と言うことができると思う。とにかく目の付け所が非常に斬新で面白い本である。

-日本史-
本の紹介『「邪馬台国」はなかった』
-国語学-
本の紹介『日本語の起源』