現代語訳 南総里見八犬伝(下)
曲亭馬琴著、白井喬二訳
河出文庫
途中から「現代語訳」ではなく「要約」になった
『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)』の続きで、『南総里見八犬伝』の第七輯から第九輯まで。
オリジナルの『南総里見八犬伝』では、肇輯(第一集)から第六輯までが31冊、第七輯が7冊、第八輯が10冊、第九輯が58冊と、第七輯から第九輯の方が圧倒的に冊数が多い(全75冊)。しかしこの『現代語訳』では(上)と(下)がほぼ同じページ数になっている。ということは当然、下巻はかなり端折られているということが容易に推測できる(僕は知らないまま読んでいたんだが)。
実際、第九輯の途中ぐらい(本書の半分ぐらい)からほぼ要約と言って良い内容になってしまい、これを「現代語訳」と呼んではなるまいというような本になってしまった。ひどいもんである。そのため、上巻は割合気分良く楽しく読んでいたんだが、下巻になってアラが非常に目立つようになった。下巻では、さまざまな小さめのエピソードもかなり省かれている上、クライマックスの合戦シーンは、戦いの展開を地の文で追いかけるだけという、およそ小説とは言いがたい内容になっているのである。そのために、知らない登場人物が唐突に出てきたりして、やけに増えてしまうし、舞台があちこちに次から次に(未消化の状態で)移り変わるしで、ややこしくなって何が何やらよくわからない状態になってしまった。
僕は今回、『図解里見八犬伝』という本を併用しながら読んでいたため、ある程度後を追うことができたが、それにしても、架空の戦の話をダイジェストで読んだところで面白いはずはなかろう。それに最後の最後は恐ろしくいい加減になって、バカバカしさも極まってくる。そもそも元々のストーリー自体がかなりご都合主義的だし、正直第九輯についてはこの『現代語訳』版を読んで損したという気がする。作者の白井喬二が途中で飽きたか忙しくなったかなんかで適当に切り上げましたという感じが伝わってくるのだ。上巻が割合よくできていて、それで信用してついていったのに、そのまま崖の下に誘導されたかのような心持ちがして、裏切られたような気さえする。第九輯については原典に当たれと言うことなのかも知れないが、ストーリーが荒唐無稽なのがわかった今となっては、今さら原典を読む気にもならない。
そういうわけで最後は結構不快な気持ちだけが残ったのだった。羊頭狗肉とはこのことである。