私家本 椿説弓張月
平岩弓枝著
新潮文庫
『椿説弓張月』の雰囲気を味わえる
曲亭馬琴の『椿説弓張月』を平岩弓枝がアレンジした小説。
『椿説弓張月』は鎮西八郎為朝(源為朝)の大冒険譚で、九州、京都、伊豆大島、四国、琉球を舞台にした壮大なスペクタクル巨編である。源為朝は源為義の八男(源義朝の弟)で、保元の乱に際して朝敵になり結果的に伊豆大島に流されるが、伊豆を実質的に支配してしまったため、国司の恨みを買って最終的に追討されたというのが史実である。『椿説弓張月』では、この実話を踏まえた上で、為朝が理性と正義の豪傑であり、行く先々で正義を貫くが、歴史に翻弄されてあちこちをさまよい歩き、各地域の悪人と対峙していくというようなストーリー展開になる。
この『私家本』についても馬琴版『椿説弓張月』を大筋において踏襲しているらしく、細かな違いはあるが、概ね『椿説弓張月』の雰囲気は味わえるようだ。僕は今回、前に読んだ『現代語訳 南総里見八犬伝』と同じような感覚でこの書に当たったわけだが、こちらも流行作家が書いたものだけに非常に読みやすかった。ストーリーは勧善懲悪かつ荒唐無稽で、必ずしも手放しで称賛できるものではないが、ハリウッド映画的な面白さはある。単純なドラマが好きな向きには格好の読みものになるかも知れない。
例によって登場人物も大量に現れて、わかりにくくなる箇所もあるが、『八犬伝』に比べれば登場人物の数ははるかに少ないこともあり、まだ許容範囲内である。正しい人、正しくない人がはっきりと分かれているため、そういう点でもわかりやすい。馬琴の原作を読んだとは言えないが読んだような気にはなる。源為朝のこともまったく知らなかったので教養にもなった。
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