春色梅児誉美―マンガ日本の古典 (31)

酒井美羽著
中央公論社

江戸期のロマンス本は
超ご都合主義的だった

 江戸後期の人情本、『春色梅児誉美しゅんしょくうめごよみ』までがマンガ化されているというのがまず驚き。ちなみに原典の作者は為永春水ためながしゅんすいだが、この春水、天保の改革のときに手鎖の刑を受け、そのショックが尾を引き2年後に死去した。摘発されたのは出版した本の内容がきわどかったせいだと言われているが、実際は単なるスケープゴートだったんではないかと思う。

 この『春色梅児誉美』は、人情本というジャンルを切り開いた作品だということだが、そもそも人情本というのがなんだかよく分からないジャンルである。あちらこちらで解説されてはいる(たとえば「庶民の色恋をテーマにした読み物の呼び名」〈Wikipedia〉など)が、もう一つピンと来ない。ということで今回は『春色梅児誉美』マンガ版を読んでみた。

 で、読んでみると、あまりにご都合主義的なラブストーリーで、安手のロマンス小説に輪をかけたような内容である。たとえば、主人公の没落している若旦那が実は名家の跡取りだったとか、登場人物Aと登場人物Bが実は姉妹だったとか、後出しジャンケンみたいな種明かしが次から次に出てきて、40〜50年前の少女マンガもかくやというストーリーで、つい「あほくさ」と思ってしまう。このマンガの著者(酒井美羽)は、そのあたりも意識してか、『春色梅児誉美』を現代風にアレンジした「スプリング・プラム・カレンダー」というマンガ作品(6ページ)を巻末にまとめているが、これがまたものすごーくはまっている。つまり『梅児誉美』もロマンス本や少女マンガと同系なんだっていうことなんだろう。実際、この『梅児誉美』をはじめとする人情本、当時は女性読者が多かったらしく、要は女性のロマンス嗜好は今も昔も変わらないということなんだろう。僕のようなオッサンは、こういうのを読むととたんに白けてしまってまったく受け付けないんだがねー。

 さてストーリーはこういう風にとりたててどうこう言うほどのものではないんだが、作画というかマンガ化については非常に質が高いと言える。全体的に少女マンガタッチで統一されていて、それも『梅児誉美』の味を引き出す役割を果たしているが、同時に作画が非常に丁寧という印象を受ける。ラブシーンもそれなりに入っていて、おそらく原作の味わいをうまく再現できているんじゃないかと思う。少女マンガに慣れていてこういう話に抵抗がない読者であれば、100%受け入れられるんじゃないかというものに仕上がっている。キャラクターの描き分けもよくできているので、途中で混乱するようなこともない。強いて評価を下すなら「マンガ=優、原作=可」ってとこか。万人にはお奨めしないが、それなりに楽しめる。

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