お伽草紙・新釈諸国噺

太宰治著
岩波文庫

太宰と西鶴のコラボ

 太宰治が昭和19年から20年にかけて発表した2作品、『新釈諸国噺』と『お伽草紙』を1冊にまとめた本。『お伽草紙』は昔話を、『新釈諸国噺』は井原西鶴の作品を現代小説風にアレンジした短編集である。

 『お伽草紙』は「瘤取り」、「浦島さん」、「カチカチ山」、「舌切雀」の4編で、たとえば「カチカチ山」では、ストーリー自体はオリジナルを踏襲しているが、ウサギがコケティッシュな若い女で、タヌキがそれに翻弄される愚直な男という描き方をする。どれもそれなりに面白くは書かれているが、悪ノリが過ぎるというような印象も受け、あまり趣味が良いとは思えない。

 一方の『新釈諸国噺』は、どれも非常に洗練された話で、ストーリーの奇抜さ、語り口のうまさは絶品である。ストーリーは西鶴のものだが、語り口は太宰の真骨頂というべきもので、話が流れるように進む。太宰は名文家というような評はあまり受けていないようだが、「小説の神様」と呼ばれている志賀直哉より上を行くと個人的には思っている。出典は『日本永代蔵』、『世間胸算用』、『武家義理物語』などで、太宰が西鶴を高く評価していることもあり、広い範囲の西鶴作品からピックアップされている。西鶴の原作に当たってみると分かるが、どの作品も非常にシンプルで、基本的にストーリーを辿るだけという感じである。そこからこの『新釈諸国噺』のような迫真の表現が生み出されたのは、誰あろう太宰の筆力によるところである。エンターテイメントとして非常に優れた短編集ができあがっているが、太宰本人によると「出来栄できばえはもとより大いに不満」ということらしい。

 この岩波文庫版については、巻末に安藤宏による「翻案とパロディのあいだ」と題する解説と高橋源一郎の「母親の文学」というタイトルのはしがき(?)が付いている。安藤の解説は、各作品の成立事情や原作との比較などがあって非常に興味深かったが、高橋の方は実につまらない。正直言ってまったく不要と感じる。一般的な文庫本の最後に付いている「解説」と同様の駄文である。2本並べた意味が分からない。

-古文-
本の紹介『世間胸算用』
-文学-
本の紹介『富嶽百景・走れメロス 他八篇』