高野聖・眉かくしの霊

泉鏡花著
岩波文庫

潔い岩波文庫の泥臭い怪異談

 泉鏡花の2作品を収録した岩波文庫である。2作品とは『高野聖』と『眉かくしの霊』だが、両方合わせても150ページ弱で、2作品だけしか収録しないという潔さはいかにも今の岩波文庫という感じがする。

 『高野聖』は、言わずと知れた泉鏡花の代表作で、旅の僧が経験した奇異な話を登場人物が聞くという体裁の小説である。中国の古典小説に材を取った怪異談で、ストーリー自体は現代の我々が読んでも十分楽しめる内容である。ただし文章が、現代の我々から見ると少々特異で、少し違和感がある。漢字の当て字は多いが、ほぼ言文一致体で、読むのに難儀することはないが、「……で。」というような終わり方が特に序盤多く、大変気になる(拙く感じる)。また、描写が中途半端な箇所も多く、何を言っているのかわからないという箇所もままある。そのため全体的に粗雑な感じを受ける。ちなみに本作は鏡花の若い頃の作品。紅葉先生がもっと手を入れたら良くなっていたかも知れない(注:泉鏡花は尾崎紅葉の弟子)。

 一方の『眉かくしの霊』については、文章に気になる点はほぼなかったが、描写にわかりにくい箇所がいくつかあった。ただしこれは、当時と今の風俗の違いに帰せられるもので、文章自体は『高野聖』に比べてはるかに読みやすい。ちなみにこちらは晩年の作。ただストーリーについては、あまり面白味を感じないようなもので、こちらも怪談であるが、『高野聖』に比べるとはるかに小ぶりという印象である。

 鏡花の作品を読んだのは今回が初めてで、鏡花作品に接するには非常に良い題材であったと思う。ただ文体による読みにくさもあるし、続けて読むかと聞かれるとウーンとうなってしまうところである。

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